本年度は,昨年度までに達成した架橋鎖の反転運動を縮環により凍結した第2世代の面不斉ピリジン触媒を用いて,ピリジン/ピリジニウムイリド触媒系による不斉シクロプロパン化反応の収率・不斉収率向上を目的としてさまざまな条件検討を行った. デカメチレン架橋鎖(C10架橋鎖)を有する縮環面不斉ピリジンの独自合成ルートで合成した酸素原子を含むヘテロ5環縮環面不斉ピリジン触媒を用い,マロノニトリルを基質とする不斉シクロプロパン化反応を行った.その結果,ピリジン環に縮環したヘテロ5環の4級炭素にブチル基を2個置換させた触媒が84%eeの不斉収率でトランス体のジシアノシクロプロパン誘導体を与えた.また,ドデシル基2個の場合は86%eeとこれまでで最も高エナンチオ選択的に機能する触媒となった.一方,ヘテロ5環にアルキル置換基を持たない触媒では不斉収率が68%eeであったことから,本反応のエナンチオ選択性の向上において,縮環部位の置換基効果が顕著に現れる結果となった. 一方で,ヘテロ環の代わりに炭素5員環および6員環縮環の面不斉ピリジノファン触媒についても同様に不斉シクロプロパン化を行ったところ,それぞれ69%ee,90%eeでシクロプロパン生成物を与え,縮環部位に相対的に大きな自由度を有する6員環縮環体がより優れた触媒機能を発揮することを見いだした.なお,炭素6員環縮環体の合成過程において,触媒の前駆体であるアルケンの不斉収率が著しく低下しやすいことを見いだしていたが,この6員環アルケン縮環体を別途単離して動力学パラメータを測定した結果より,合成中間体の不斉収率低下の要因はアルケン体そのものがラセミ化するのではなく,反応中間体として予測されるカルボカチオンが影響している可能性を示唆する結果を与えた.
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