研究課題/領域番号 |
15K13650
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
山田 英俊 関西学院大学, 理工学部, 教授 (90200732)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 有機合成化学 / 糖化学 / 立体配座 / 柔軟化 / グリコシル化反応 |
研究実績の概要 |
糖転移酵素は、グリコシル化反応を触媒するとき、糖の立体配座を柔軟に曲げながら反応を進める。この立体配座を柔軟に推移させる概念が、従来の化学的グリコシル化反応にはなく、反応効率は酵素に遠く及んでいない。本研究では、糖の立体配座を柔軟化して、グリコシル化反応の効率を格段に高めることを目的に、長い架橋基の導入による糖立体配座の柔軟性と反応性の変化を調べ、反応を高効率化する指針を得ることを目的とする。化学的なグリコシル化反応は、これまでずっと立体配座を固定して行ってきたため、本研究は斬新な試みとなる。立体配座の柔軟化は本提案の学術的特色であり、グリコシル化反応を高効率化する新規かつ具体的な知見を得ることを期待できる。 この目的の下、平成27年度には【1】ビベンジルビベンジル-2,2’-ビス(メチレン)(以下、BBB)架橋グルコースの立体配座および反応性の調査と【2】BBB基以外の架橋基による立体配座の柔軟化について検討した。現在のところ、BBB架橋したグルコースは、アノマー位の脱離基が変わると立体配座も変わる柔軟な構造を有していること、BBB架橋グルコース誘導体を用いてグリコシル化反応を行うと、高α-選択的な反応が可能であること、当初予測したより広い範囲で立体配座が変化する可能性があることが明らかになってきた。 今後、計算化学と観測結果が一致しない場合の計算別法、BBB基以外の架橋基を用いたピラノース環の柔軟化、マンノース、ガラクトースへBBB基を導入した場合の立体配座変化などを検討し、立体配座を柔軟化できる構造の設計指針を得る。また、実測したグリコシル化反応前後のコンフォメーション変化を基に、遷移状態の立体配座や、立体選択性の発現理由などを解明する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.BBB架橋グルコースの立体配座および反応性の調査。(1)脱離基を異にする三種類の架橋糖について、立体配座を調査し、アノマー位の脱離基の違いで立体配座が変化することを明らかにした。立体配座の決定には、1H NMRの結合定数を基にした。一方、化学計算での結果と観測結果が一致しないことがあり、この点についてはさらに検討を要する。(2)平成28年度の計画を先取りし、脱離基を異にする三種類の架橋糖について、それぞれ反応最適化を実施した。その結果、どの脱離基を有する場合にも、それぞれ高いα-選択性で反応を進行させることができた。また、高いα-選択性が反応温度の変化にあまり影響されないことが明らかになった。この現象は、ピラノース環の柔軟化によって立体配座が遷移し、脱離基を離しやすい立体配座を取りやすくなっていることが原因であろうと考察している。一方、立体配座を異にする糖との反応性の比較は実施できていないが、今後速やかに実行できる状況にある。(3)グルコースの立体配座マップ上の可動範囲を明らかにしつつあり、当初予測したより広い範囲で立体配座が変化する、(好ましい方の)想定外の結果を得始めている。 2.BBB基以外の架橋基による立体配座の柔軟化(1)化学計算を基に、グルコース上の隣接した酸素を架橋した場合、立体配座の変更が難しいと判断した。そのため、離れた位置にある酸素を架橋した化合物、すなわち、2,4位酸素、2,6位酸素、3,6位酸素をそれぞれ架橋した化合物に絞って合成する方針を立てた。このうち、合成が最も難しいと考えられる2,6酸素を架橋した化合物の合成に取り組んだが、架橋体を得ることができなかった。3,6-酸素を架橋した化合物については、BBB架橋基以外に二種類の新たな架橋基を導入でき、ピラノース環の立体配座を明らかにした。予定していた柔軟化を確認する検討は、引き続き平成28年度に行う。
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今後の研究の推進方策 |
研究実施計画と平成27年度の進捗状況を踏まえ、以下のように研究を推進する。 1.平成27年度に計画したものの、未だ実施あるいは解決できていない、以下の項目について検討する。(1)BBB架橋グルコースについて、化学計算での結果と観測結果が一致しないことがあるため、計算方法をさらに検討する。(2)立体配座を異にする糖との反応性の比較を行う。(3)BBB架橋基以外の新たな架橋基を導入した例を増やし、柔軟化を確認する。 2.BBB基以外の架橋基を用いたピラノース環の柔軟化について取り組む。 3.マンノース、ガラクトースへBBB基を導入した化合物を合成し、その立体配座変化を明らかにする。柔軟化したマンノースやガラクトースの誘導体が得られた場合、それを用いたグリコシル化反応を検討する。 4.本研究で「柔軟になった」と判断した化合物の共通性(架橋位置、架橋の長さ)や、計算化学での各コンフォマーのポテンシャルエネルギーを検討し、立体配座を柔軟化できる構造の設計指針を得る。また、実測したグリコシル化反応前後のコンフォメーション変化を基に、遷移状態の立体配座や、立体選択性の発現理由などを解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究への協力を予定していた博士研究員の自己都合退職により、種々の反応剤を購入して試みる実験を変更し、現在所有している反応剤を用いた研究に切り替えたため。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度、新しい博士研究員の参画が確定しているため、種々の反応剤を購入して試みる実験を再開する。
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