半導体光触媒の研究開発は、太陽電池および水の分解を含め分解反応を目的としたものが主であり、可視光応答化に向け精力が注がれている。一方、光触媒を積極的に有機合成反応に用いた例は少ない。新規合成反応の構築が触媒や試薬の改良で限界がある場合は、これまでにない新しい反応場が必要になる。そこで本研究では、酸化力の高いTiO2と還元力の高いSiCの薄膜をマイクロリアクターに組み込み、新規の光有機合成反応の開発を目的として、光触媒機能をもつTiO2およびSiC薄膜を製作し、それらの特性評価やその薄膜を用いた反応を検討した。 SiC薄膜に関しては、SiC薄膜をマイクロリアクターの流路に用いるため500℃以下での結晶化を目標とした。SiC薄膜の製作は、高周波マグネトロンスパッタ装置を用いて行い、投入電力と注入するArガスの圧力が、SiC成膜速度、粒子の運動エネルギー、表面構造(平均粒子径、表面粗さ、表面積)および光学特性(透過率、反射率)にどう影響を及ぼすかを明らかにした。また、運動エネルギーを制御することにより低温でも結晶化(6H-SiC)することができた。 TiO2薄膜に関しては、同じく高周波マグネトロンスパッタ装置を用いて、ガラス基板上にTiO2薄膜を成膜し、その表面構造および光学特性を明らかにした。また、TiO2薄膜を用いてマイクロリアクターを作製し、ニトロ化合物およびアルケン類の光還元反応、アルケン類のアルコールの付加反応、水素発生の検討を行った。その結果、TiO2薄膜が光触媒として働き、マイクロリアクターで有効に利用できることが明らかになった。また、TiO2薄膜の表面構造、助触媒、流路の形状や材質が上記の反応の収率や選択率に影響を及ぼすことも明らかにした。
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