研究実績の概要 |
研究課題1:「中性ーイオン性転移型DA鎖における誘電応答」について 電子ドナー(D)と電子アクセプター(A)からなるDA鎖で、温度および圧力依存により中性ーイオン性転移(NI転移)を起こす化合物の2例目を見出した。以前のNI転移DA鎖は、2段階で転移を起こす物質であったが(JACS 2011, 133, 5338; Chem. Eur. J. 2014, 20, 5121; Inorg. Chem. 2016, 55, 2473)、今回のこの物質は、1段階でNI転移を示した。また、NI転移前後で、常磁性(N)とフェリ磁性(I)が変換することから、転移時の電気双極子と磁気双極子のカップリングが期待された。誘電測定からは、NI転移点で僅かに構造転移に関する応答が得られたが、ペレット測定であったことから、シグナルはさほど大きくなかった。また、NI転移に伴う電子移動を介した一次元方向の電子輸送もあることも確認されたが、磁気抵抗などの測定に関しては、今後さらなる検討が必要である。今後NI転移に関する協奏現象の解明に期待が掛かる。 研究課題2:「スピンパイエルス転移類似のスピン二量化を伴う、三次元骨格体」について 水車型[Ru2]錯体とTTF-TCNQからなる三次元骨格体を得ることに成功した。この化合物は、常磁性の[Ru2]ユニットとTCNQラジカルが三次元骨格を形成するため、磁石になる可能性を持っていた。しかし、TCNQラジカルとTTFラジカルが空間的なπスタックを形成しており、温度を下げることによりTTF-TCNQでパイエルス転移型のスピン二量化を起こすため、急激な磁化減少を起こした。強磁場下での磁気転移などは残念ながら確認されなかった。しかし、この化合物は、非常に安定な多孔性の物質であり、ゲスト分子誘起磁気転移についても興味が持たれる。
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