研究課題/領域番号 |
15K13653
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
壹岐 伸彦 東北大学, 環境科学研究科, 教授 (50282108)
|
研究分担者 |
鈴木 敦子 (升谷敦子) 東北大学, 環境科学研究科, 助教 (10633464)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 多核・クラスター錯体 / フォトニック材料 / 発光素子 / ランタニド / フォトン変換 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,従来セラミクスでしか実現していない光エネルギーのアップ・ダウンコンバージョン(UC・DC)を可能とする異核ランタニドクラスター錯体を生成させ,フォトニック材料を創製するところにある.実績は次の通りである. 1.異核複核Lnクラスター錯体の生成 チアカリックスアレーン(TCAS)を基体とし,Tb-Yb系をモデルとして検討した.単純混合系の質量分析により異核複核錯体Tb3-xYbxTCAS2 (x = 0-3)が混合物として得られることを明らかにした.混合物としての光物理特性を精査し,Tb→Ybエネルギー移動すなわちf-f communicationが生じていることを明らかにした.これはUC・DC材料を設計する上で有望な知見である(論文1).一方異核複核錯体の選択的生成を目指し,1:1錯体からの錯形成速度を第4級アンモニウムイオンで制御できることを明らかにした.また別のアプローチとして混合物からの異核複核錯体の分離を検討した.キャピラリー電気泳動系でポリエチレングリコールを相互作用試薬とすることで異核複核錯体Tb3-xYbxTCAS2 (x = 0-3)を分離できることを明らかとした. 2.フォトニクス材料化 Tb3TCAS2をモデルとし,材料化を計った.検討した方法はTb3TCAS2の電荷を四級陽イオンで中和し,得られた塩をポリマー溶液に溶解し,複合化するというものである.種々の条件検討の結果,陽イオンとしてテトラデシルトリヘキシルホスホニウム(TDTHP)イオン,ポリマーとしてポリメタクリル酸メチル(PMMA),双方の溶媒としてクロロホルム-DMFが最適であることを見いだし,Tb3TCAS2を導入したPMMA薄膜を得ることに成功した.これはTb3TCAS2-TDTHP塩と比較し,大きな発光寿命および絶対量子収率を与え,材料として高機能化できることを明らかにした.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.異核複核Lnクラスター錯体の生成 混合物レベルではあるが,光物理特性を明らかにし,UCやDCの基となるf-f communicationを確認したことは大きな成果である.一方,Tb3-xYbxTCAS2 (x = 0-3)の選択的形成は未だ達成していないが,Ln1TCAS1からの生成速度を制御する仕組みを見いだしたので,今後是非これを選択的形成に結びつけたい. 単離についてはTb3-xYbxTCAS2 (x = 0-3)の化学的性質の類似性を考えれば,分析スケールではあるがキャピラリー電気泳動で分離を達成したことは,次の分取ステップへの大きなマイルストーンとなる. 2.フォトニクス材料化 「9.研究実績の概要」で述べた系で材料を得ることに成功しており,今後単離したTb3-xYbxTCAS2 (x = 1 or 2)の導入を待つばかりである.
|
今後の研究の推進方策 |
1.異核複核Lnクラスター錯体の生成: H28年度前半にTb3-xYbxTCAS2 (x = 1 or 2)の単離に注力し,以下の項目の検討に移行する. 2.フォトニクス材料化: Tb3-xYbxTCAS2 (x = 1 or 2)の導入.並行してより簡易な材料化を検討する.すなわち陽イオン性サイトを有するポリマー材料との複合化である.そうすることで有機溶媒フリーの水溶液プロセスによる材料化が可能となる. 3.エネルギー変換能の評価: 上記1で得た知見を基に,f-f communication可能なLn-Ln’系を材料化し,エネルギー移動効率や発光量子収率を明確化する. 4.イメージングの初期検討: Ln3TCAS2のバイオコンジュゲートの実績を基に,異核複核錯体をがん細胞に導入し,UC・DCイメージングを検討する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は検討する異核複核系をTb-Ybに限定したこと,材料化においては順調に検討が進んだことなどが要員としてあげられる.
|
次年度使用額の使用計画 |
今後f-f communicationを生ずる系を広く検討するため,多量のランタニド塩が必要となり,次年度に執行する.一方異核複核錯体の単離法がひとたび確立されれば,その合成のために多量のランタニド塩,配位子,緩衝剤など試薬類を消費することとなる.
|