研究実績の概要 |
金属数に分布のある金属「粒子」を、金属数や構造が規定された「分子」として精密合成できれば、金属数や構造と性質・反応性の関係を明らかにし、合目的に触媒・材料開発等の応用へ繋ぐ端緒が開ける。そこで本研究では、独自の合成コンセプトに基づいて、先例のない分子性の金属クラスター化合物群の創製を目指した。金属元素としては、入手が比較的容易かつ高い反応性を兼ね備えた鉄とコバルトを主な対象とし、ボトムアップ型の均一系自己集積化反応を利用することとした。H27年度の本研究では、金属-アミド錯体とボラン類のσ-結合メタセシス型の反応に基づく、非極性有機溶媒中での金属クラスターの合成を検討した。その結果、コバルトアミド錯体とピナコールボランの反応から、四角形型の四核コバルトクラスターならびに平面型の七核コバルトクラスターが得られ、またトリイソプロピルホスフィンを共存させた反応からは、八面体型のコバルト六核クラスターが生成した。これらのクラスターは、空気や湿気と瞬時に反応するほど反応性が高いことから、分子触媒として利用できると考えた。コバルト六核クラスターが、α,β不飽和カルボニル類を共役還元することで知られる銅六核ヒドリドクラスター(通称Stryker試薬)と似ていることに着目し、シクロヘキセノンの触媒的ヒドロシリル化を検討した結果、共役還元が進むことが明らかになった。また同じ条件で、四核クラスターならびにコバルトアミド錯体は1,2-還元を触媒することを見出した。コバルト六核クラスターと不斉キレート配位子を共存させて実施したアセトフェノン誘導体のヒドロシリル化反応からは、触媒反応に主に寄与する化学種はクラスター骨格を保持していることを示唆する結果を得た。
|