研究課題/領域番号 |
15K13661
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
越山 友美 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30467279)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 金属錯体 / 外部刺激応答性 / 細胞膜骨格 / 赤血球 |
研究実績の概要 |
メッシュ状細胞膜骨格は、細胞膜直下に張り巡らされた二次元網目構造であり、網目の一辺を形成するバネ蛋白質は膜変形に伴い可逆的に伸縮し、かつ金属配位能や化学修飾可能なアミノ酸残基が規則正しく配置した特異な構造体である。本研究では、動的な基盤分子であるメッシュ状細胞膜骨格への部位特異的な金属錯体集積化の基盤技術を確立し、外部刺激によるバネ蛋白質の伸縮と連動した金属錯体の機能制御を目指している。本年度は、バネ蛋白質のリシン残基への金属錯体の固定化に向けて、(1) 修飾する金属錯体の配位子合成と固定化法の検討、 (2) 赤血球のメッシュ状細胞膜骨格への修飾条件のスクリーニングを行った。具体的には、トリアゾール錯体、またはカテコール錯体をバネ蛋白質へ修飾するため、リシン残基のアミノ基と選択的に反応するNHS基を導入したトリアゾール-NHS基とカテコール-NHS基の合成経路の確立、クリック反応による金属錯体の固定化、および赤血球からヘモグロビンなどの水溶性内容物を取り除いたメッシュ状赤血球膜骨格への蛍光分子の修飾に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、バネ蛋白質への金属錯体の固定化に向けて、(1) 配位子の合成経路の確立と固定化法の検討、(2) 市販の蛍光分子-NHS基を用いたメッシュ状赤血球膜骨格の修飾条件の検討を進めた。8月に研究室が移転したため、装置や実験室の解体と立ち上げにより3ヶ月近く実験停止を余儀なくされ、各種装置の移設・立ち上げなどでサンプル保存に問題が生じるために、赤血球を用いる (2) の実験は実験室の立ち上げ後に先送りして、(1) の配位子合成を優先し、さらに赤血球の代わりにリポソームを用いてクリック反応による金属錯体の固定化の検討を前倒しで進めた。以上の理由で、(2) に関しては進捗に若干の遅れが出たものの、研究課題全体としては、おおむね順調に進展している。 実験項目 (1) のトリアゾール-NHS基の合成に関しては、当初計画していた合成経路では十分な収率が得られなかったことから、合成経路の再検討による収率改善と、新たな配位子(カテコール-NHS基)の設計と合成も行った。さらに、クリック反応を利用したリポソームへの金属錯体の固定化では、アジド基を導入したRu(bpy)3錯体の合成とアルキニル基を導入したリン脂質の合成を行った。合成した化合物を用いることでリポソーム膜表面へのRu錯体の固定化に成功し、赤血球の修飾においてリシン基の修飾に加えてクリック反応も利用できると考えらえる。実験項目 (2) に関しては、予定より配位子合成に時間を要したため、メッシュ状赤血球膜骨格の修飾条件のスクリーニングは、合成した配位子ではなく、市販の蛍光分子-NHS基を用いて実施した。メッシュ状赤血球膜骨格の調整条件の最適化、および化学修飾の際の温度、濃度、反応時間などの条件を絞り込み、共焦点レーザー顕微鏡観察により膜骨格への蛍光分子の修飾を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果をもとに、(1) 配位子の大量合成、(2) メッシュ状赤血球膜骨格への配位子修飾と錯形成、および、(3) 錯体を固定化した赤血球膜骨格の同定と機能評価を実施する。膜骨格上での金属錯体の形成は、吸収スペクトル、共焦点レーザー顕微鏡観察、およびTEM、SEMにより確認する。加えて、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動装置を用いて、修飾された膜骨格蛋白質を抽出し、消化酵素処理したペプチドの質量分析により修飾部位の決定も試みる。機能評価では、浸透圧の差や、ミクロフローセルホルダを利用した溶液への加圧などで膜骨格の構造変化を誘起し、まずは変化前後の吸収スペクトル測定により、膜骨格の伸縮と金属錯体の構造変化の関係を明らかとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究室移転のために、赤血球を用いた実験を先送りしたため、金属錯体を修飾した赤血球の同定と機能評価で利用する備品等の購入費を次年度に繰り越した。研究の進捗に関しては、別の実験を前倒しして進めたために大きな遅延はなく、次年度の速やかに研究展開できる状況にある。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の研究では、配位子の合成に加え、赤血球への金属錯体の修飾と同定、機能評価に重点を置く。そのため研究経費は、配位子や錯体の合成に必要な試薬類と消耗品、赤血球の購入、修飾後の赤血球の同定に使用する設備備品、TEMやSEM等の共通機器の利用料に充てる。特に、金属錯体を修飾した赤血球の機能評価においては、加圧下での吸収スペクトル測定が必要不可欠なため、翌年度分として請求した助成金は、30 MPaまで加圧可能なミクロフローセルホルダーの購入に充てる予定である。
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