研究課題/領域番号 |
15K13665
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
村瀬 隆史 山形大学, 理学部, 准教授 (70508184)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | シクロアルカン / 分子認識 / 環化反応 / 疎水効果 / ロタキサン |
研究実績の概要 |
最もシンプルな環状化合物はシクロアルカンであると考えられるが、シクロアルカンが環状ホストとしてゲスト認識に用いられた例はほとんどない。本研究では、シクロアルカンの骨格が柔軟であることを利用して、外部刺激で空孔を一時的に拡張することでゲストを包接することをめざした。親水性官能基であるカルボキシレート基を側鎖に導入した水溶性の大環状アルカンを合成すれば、大環状アルカンの空洞内が疎水的になって、直鎖状の疎水性分子をロタキサンのように空洞内へ貫通させられるのではないかと考えた。 マロン酸ジエチルと1,10-ジブロモデカンを原料として用い、塩基条件下で一方を過剰に使用することで、大環状アルカンの前駆体となる2つのパートをそれぞれ選択的に合成した。次に、この2つのパートを塩基条件下で反応させ、大環状アルカンを合成した。この環化反応は、分子間反応→分子内反応と2段階で進行する。分子内反応は低濃度で行わなければ分子間反応が優先し、直鎖状のポリマーが生成してしまうが、逆に低濃度過ぎると、最初の分子間反応が起こりにくくなってしまう。反応条件を最適化した結果、基質濃度3 mMでヨウ化ナトリウムを求核触媒として加えると、収率50%程度で大環状アルカンが得られることが分かった。この反応条件は、環サイズが異なる種々の大環状アルカンの合成に適用できると考えられる。最後に、塩基で加水分解をすることで、カルボキシレート基を6個もつ水溶性の大環状アルカンを合成した。この大環状アルカンと種々の直鎖状ゲスト分子を水溶液中で加熱還流させた。カルボキシル基をもつゲスト分子の場合、1H NMRシグナルの変化があり、大環状アルカンとの相互作用が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「ホストがもつ空孔を一時的に拡張して通常では包接しにくいゲストを包接させる」というコンセプトを実現するため、研究の最初の段階でホスト骨格をいろいろ試した。また、側鎖官能基をもつ大環状アルカンの合成ルートや反応条件を最適化するために、予想以上に時間を費やしてしまい、ゲスト包接に関する知見があまり得られなかった。ただし、今回最適化した反応条件は、環サイズが異なる種々の大環状アルカンの合成に適用可能で汎用性が高く、今後の研究で大いに活かせるものである。総合的に判断すると、研究はやや遅れているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
[2]ロタキサンを最初に合成したHarrisonは、トリチル基(ストッパー)を両端にもつ軸分子が通り抜け可能なシクロアルカンの環サイズについて調べ、極めて低い収率ながらC29のみ安定なロタキサンを形成することを報告した。C25~C29の環サイズをもつシクロアルカンについては、ストッパーを軸分子から可逆的に脱着させることにより低収率でロタキサンを形成した。これをふまえて本年度は、C25~C28の環サイズをもつシクロアルカンの骨格に着目し、シクロアルカンの空洞を“一時的に”拡張させてストッパーを乗り越え、かつ、シクロアルカンと軸分子との間に相互作用を働かせることにより、特徴的な官能基をもたないシクロアルカンでも、ロタキサンを収率よく合成できることを立証する。 具体的には、C27の環サイズをもつシクロアルカン(大環状アルカン)に親水性のポリエチレングリコール(PEG)側鎖を6個つける。超音波照射でPEGを介してシクロアルカンを外側へ引っ張り、空洞を“強制的に”拡張することで、ロタキサンを合成する。長さが異なる種々のPEGは、エステル交換反応によって大環状アルカンに導入する。環成分と軸成分との間に相互作用を生じさせるために、反応溶媒は水やジメチルスルホキシドのような高極性溶媒を用いる。合成したロタキサンの構造は、NMR, MS, IR, HPLC, X線構造解析により決定する。得られた結果を取りまとめ、学会発表や専門誌にて発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
4万円程度残額が生じた理由は、真空ポンプシステムを購入する際に、通常価格よりも安い特価で購入できたためである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、平成27年度以上にさまざまな種類の試薬を購入する必要がある。したがって、残額の助成金は物品費に割り当てる。
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