[2]ロタキサンを最初に合成したHarrisonは、トリチル基(ストッパー)を両端にもつアルキル鎖(軸分子)が通り抜け可能なシクロアルカンの環サイズについて調べ、120℃で加熱した時、極めて低い収率ながらC29員環のシクロアルカンのみ安定なロタキサンを形成することを報告した。この系では、シクロアルカンと軸分子との間に引力的な相互作用が働かず、偶然に頼っているために収率が低いと考えた。本研究では、シクロアルカンを水溶性にし、疎水効果を利用してアルキル鎖をシクロアルカンの空洞に留めておくことで、安定なロタキサンを形成することに挑戦した。 C27員環のシクロアルカンに6個のカルボキシレート基を導入し、水溶性のシクロアルカンを合成した。軸分子として、C12のアルキル鎖の両端にトリチル基を導入したものを別途合成した。水/アセトニトリルの混合溶媒(9:1)中で、“slipping”によるロタキサン合成を行った。10日間加熱還流したが、1H NMRスペクトルや紫外吸収スペクトルでロタキサンの形成は確認できなかった。そこで、マイクロ波照射による誘電加熱によりシクロアルカンの空洞を一時的に拡張させて、ストッパーの障壁を乗り越えることを期待した。しかし、1時間マイクロ波照射を行っても、ロタキサンの形成は確認できなかった。シクロアルカンに導入したカルボキシレート基を酸処理によりカルボキシ基に変換し、DMSO中140℃で加熱して、疎溶媒効果によるロタキサン形成も試みた。しかしこの場合は、脱炭酸のみが起こり、6個のカルボキシ基が3個のカルボキシ基に減少しただけであった。ロタキサンを形成できなかった理由の1つとして、シクロアルカンの骨格が柔軟であるために、極性溶媒中ではシクロアルカン自身が空洞を押しつぶすように凝集していることが挙げられる。
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