研究課題/領域番号 |
15K13666
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中林 耕二 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (80466797)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 磁性 / 分子認識 / ナノ空孔材料 / ネットワーク |
研究実績の概要 |
本研究では、機能性ゲスト分子を内包可能な巨大な空孔を有する強磁性体の構築を目的としている。平成27年度は、1 nm 径を超える巨大な空孔を有しかつ強磁性転移を示す分子磁性体の設計と構築を行った。強磁性転移を示す分子磁性体を構築するには、常磁性金属種間の磁気的交換相互作用が強く、また、常磁性金属種が密に集積していることが重要であることから、本研究では常磁性金属種がCN基など短い架橋配位子で架橋された金属集合体を研究対象とした。構築素子として、スピンを持った八配位金属酸イオンと遷移金属イオンのみを用い、非磁性の有機配位子は極力排除し、巨大な空孔を有する強磁性金属集合体を合成した。当初の計画通り、アセトン-水混合溶媒中で、八配位金属酸イオンと遷移金属2価イオンをゆっくり錯形成させると、赤色板状の微小結晶が得られた。研究室レベルでは測定困難な微小結晶であったため、高エネルギー加速器研究機構において、放射光を用いた単結晶X線構造解析を行ったところ、1 nmを超える空孔を有する3次元金属集合体であることが明らかになった。その3次元構造は、CN基によって架橋されたコバルト(II)とタングステン(V)が交互に集積した構造となっており、空孔には水分子が多量に存在していた。一部の非架橋CN基は、空孔に面しており、水分子と水素結合していた。得られた化合物の多結晶体の磁気特性を調べるため、温度依存性磁化を測定したところ、28 Kにおいて強磁性転移を示すことが明らかになった。以上より、本化合物は、1 nm 径を超える巨大な空孔を有し、かつ強磁性を示す新規金属集合体であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、機能性ゲスト分子を内包可能な1 nm 径を超える巨大な空孔を有する強磁性体の構築を目的としており、平成27年度は、その磁性体の設計と構築を行った。八配位金属酸イオンと遷移金属2価イオンとを構築素子として、それらをアセトン-水の混合溶媒中でゆっくり錯形成させることにより、1 nmを超える空孔を有する3次元金属集合体の合成に成功した。本化合物は微結晶として得られたため、研究室レベルのX線回折装置では単結晶構造解析が困難であったが、高エネルギー加速器研究機構の放射光を用いることにより、結晶構造を決定することができた。得られた化合物の構造は、CN基で架橋された3次元金属集積構造となっており、1方向に揃った巨大な空孔を有していた。この構造は、当初予定していた構造とほぼ同一であり、計画的に目的化合物を合成できたと考えられる。また、磁化率温度変化測定の結果より、本化合物が28 Kで磁気相転移を示す強磁性体であることも明らかになった。以上より、計画段階で予想していた構造とほぼ同一の巨大空孔を有する構造体を得ることに成功し、また、本化合物が強磁性を示すことも明らかにできたため、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度において、巨大な空孔を有し、かつ強磁性を示す3次元金属集合体を計画通り得ることができたので、次年度は、この化合物を用いて機能性ゲスト分子の包接実験を行う。当該3次元金属集合体により構築される空孔は、非架橋のCN基が空孔内に面していると考えられ、極性の高い空間になっていると考えられる。したがって、取り込むゲストは水溶性の高い極性ゲストを選択する。しかしながら、対象としている金属集合体結晶が生成する母液は、現在、アセトン-水の混合溶媒であるため、この溶媒環境下では極性ゲストは溶媒側で安定化してしまい、金属集合体空孔内に極性ゲストを取り込ませるのは困難であると予想される。したがって、まずは得られた金属集合体結晶を極性の低い溶媒中に移した後、ゲスト取り込み反応を試みる。機能性ゲスト分子として、種々の光学特性および光学活性物質、金属クラスターなどを対象として取り込み反応を行い、強磁性フレームワークと機能性ゲストの相関関係について、磁気的、構造学的観点から明らかにする。極低温から室温までの各種分光測定、磁化測定を行う。また、単結晶および粉末X線構造解析も同様の温度領域で行い、構造と磁気特性、その他機能性との関係を明らかにする。
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