本研究課題は、機能性ゲスト分子を取り込むことが可能な巨大な空孔を有する強磁性体の構築を目的としている。平成28年度までに、1 nm 径を超える巨大な空孔を有するCo-W金属錯体を合成し、キュリー温度29 K、保磁力5500 Oeを示す強磁性体であることを明らかにした。Co-W間に強磁性的相互作用が働き、Co(II)(S = 3/2)およびW(V)(S = 1/2)上の各スピンが平行に配列した強磁性相を有している。平成29年度は、合成手法改善により合成時間を短縮し、また、巨大空孔強磁性体の結晶溶媒の脱離に伴う構造および磁性変化を観測することに成功した。本錯体は、過剰の塩化ルビジウム存在下、八配位金属酸イオン水溶液とコバルト2価イオンアセトン-水混合溶媒を2層になるように静置し、茶色粉末生成を経て、通常2~3か月後に赤色板状結晶として得られるが、反応初期2層溶液をわずかにゆすることによって、反応が促進され、2-3週間程度で目的の赤色板状結晶が得られることを見出した。当該Co-W金属錯体が有する空孔は合成時に使用したアセトンおよび水で満たされているが、真空引きをおこなったところ、大部分の溶媒が離脱し構造変化することがわかった。本錯体の結晶は、真空引き後もその結晶性を保っており、単結晶X線構造解析が可能であった。溶媒脱離後の結晶構造は、脱離前のフレームワークと同様であったが、空孔がほぼ閉じたような構造を有していることが明らかになった。この構造変化した錯体の磁気測定をおこなったところ、強磁性転移温度が29 Kから20 K程度まで変化することが明らかになった。
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