研究課題
27年度は以下の項目を[RNH3][MeX4](R=Et, Me=Fe, Cd, X=Cl)について詳細に調べることにしていた。(EtNH3)[FeCl4]では、傾角反強磁性相で、単結晶状態では非常に大きなヒステリシスが見られるが、強弾性ドメインより小さな粉末にすることにより、磁気相転移温度は、変わらないもののヒステリシスが劇的に小さくなることを見出していた。(光学測定により観察された強弾性ドメインが数百ミクロン程度であることは確認している)このことは傾角反強磁性と強弾性に交差相関によるものと考えられる。本年度は同じ空間群で非磁性の(EtNH3)[CdCl4]と比べることにより、交差相関に磁性が関与していることを証明することにしていた。Cd塩の合成の前に、強弾性状態で応力を与えることで、強弾性ドメインが結晶全体に拡がり、シングルドメインになることが判明したため、Cd塩による間接的証明の前に、各結晶軸に応力をかけて磁気ヒステリシスの変化を観測することによる直接証明を進めることにした。ところが、(EtNH3)[FeCl4]は非常に潮解性が強く、応力をスピリング等でかけて詳細な実験を行う際、非常に困難であることが判明した。そのため、潮解性を持たない新規化合物の作成を進めた。潮解性は、化合物の水に対する溶解度の問題であるため、化合物中に非親水性の部位を導入することで容易に作成できると考えられ、[C6H5C2H5NH3][FeCl4]および[C6H11C2H5NH3][FeCl4]の単結晶を作成した。ともに潮解性がなく、測定に適していることが分かった。磁気測定を行ったところ、(EtNH3)[FeCl4]と同様に、約100Kで弱強磁性転移があり、ごく低温下で非常に大きなヒステリシスを示した。また粉末試料ではヒステリシスが消失することが確認できた。今後この塩を用いて研究を進める。
2: おおむね順調に進展している
本研究は磁化と強弾性の複合効果解明のための研究である。(EtNH3)[FeCl4]の単結晶において、傾角磁性と強弾性相において、磁気相転移点以下ごく低温下で単結晶の場合大きなヒステリシスが、強弾性ドメインを無くした単一強弾性ドメインで構成された粉末試料ではヒステリシスが消失することが分かっていた。そこで、強弾性複数ドメインの単結晶に応力を加え、単一強弾性ドメインにしたのち、磁気測定を行うことにより、強弾性ドメインウォールの磁性に対するピニング効果について、研究を行うことにしていた。磁気測定を行う際に、スプリング等で応力を加えつつ、ごく低温に冷却し、磁気測定を行う必要があるが、(EtNH3)[FeCl4]の単結晶は潮解性が高く、治具に固定する際に、困難が予想された。そこで潮解性がなく同様の物性を示す、新しいマルチフェロイックスの合成を行った。その結果、潮解性を示さず同様な物性を示す有機無機ハイブリッドマルチフェロイクスの合成に成功した。当初の目的の弾性ー磁化相互作用についての測定はこれから行うことになるが、今回、エチル基をフェニルエチル基、シクロヘキシルエチル基に置換しても、全く同様のマルチフェロイックスが得られたことは、大きな進展であると考えられる。このことは、この系のマルチフェロイックスの誘導体が比較的簡単に創製できることを意味し、今後光学物性の異なるマルチフェロイックス等が数多く作成できる可能性を示すものである。
前述のように、潮解性のない新しいマルチフェロイック結晶が得られたので、今後、単結晶に各方位から応力を加え、強弾性ドメインを単一にしたのち、磁気測定を行う。その際、角度依存性を測定することにより、強弾性と磁化の相互作用の詳細について調べ、弾性ー磁化効果を明らかにする。また200K付近に存在する誘電異常の詳細について検討し、強誘電転移なのか反強誘電転移なのか、また(反)強誘電ドメインと強弾性ドメインの関係についても明らかにする。可能であれば、電気分極ー強弾性効果にも踏み込み、明らかにしたい。
すべて 2015 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 8件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
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