研究課題/領域番号 |
15K13678
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
関谷 博 九州大学, 理学研究院, 名誉教授 (90154658)
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研究分担者 |
山本 典史 千葉工業大学, 工学部, 准教授 (30452163)
網本 貴一 広島大学, 教育学研究科, 准教授 (60294873)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 有機結晶 / 多形 / ドミノ転移 / ラマン分光 / 結晶シミュレーション |
研究実績の概要 |
5-クロロサリチリデンアニリン(5CSA)の結晶は、機械的刺激によってα形(黄色)からβ形(橙色)へ転移する。5CSAの2つの多形のうち、β形結晶の方が安定であるために、エタノールなどの良溶媒を用いて再結晶を行うと殆どβ形結晶となる。エタノールにアセトンを加え、再結晶を行うときに、二つの溶媒の体積比と室温を最適化することによって、α形結晶を優先的に作成できた。α形結晶からβ形結晶へのドミノ転移機構の解明を目的として、顕微ラマン分光法による研究を行った。α形とβ形、それぞれに特有な振動バンドが観測された。α形結晶の120 cm-1の振動バンド、β形結晶の1200 cm-1の振動バンドは多形を識別するための良いマーカーであることを示した。機械的刺激による転移と比べて、光照射による転移は転移の開始時間を明瞭に分かる。また、結晶のどの微小部分から転移が開始したかが分かる。この利点を活かし、結晶の微小部分に紫外レーザー光を照射したところ、120 cm-1のバンドの強度が減少し、α形からβ形への転移が進行していることが示唆された。すなわち、転移に伴うスペクトル変化を観測した。5CSAの二つの多型のX線結晶解析による結晶構造をもとに、CRYSTAL14プログラムを用いてラマンスペクトルのシミュレーションを行った。実験によって観測されたα形結晶とβ形結晶の異なるバンド構造がシミュレーションによって再現された。これらの成果により、ドミノ転移の中間状態について詳細に調査するための基礎が確立された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
結晶多形の中で不安定な結晶を優先的に作成する方法を確立した。結晶のドミノ転移を紫外レーザー照射で誘起させる方法を見つけた。また、顕微ラマン分光法によって多形を区別できることを実験とシミュレーションによって示した。これらの成果によってドミノ転移の中間状態の調査を行う方法が準備できた。
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今後の研究の推進方策 |
結晶多形の顕微ラマンスペクトルの温度変化の測定を行い、結晶の熱的転移の活性化エネルギーを求める。また、不安定な結晶にレーザーを照射し、安定な多形に転移する中間状態をラマン分光を行う。さらに。結晶内の一部の分子の構造異性化が生じたときのラマンスペクトルのシミュレーションを行う。これらの研究によってドミノ転移の機構について研究を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
有機結晶のラマン分光を装置使用料が必要な機関(九州大学、大分大学)で行う予定であったが、分子科学研究所で測定を行い装置使用料を節約できた(関谷)。研究実施に必要な物品を他の予算で購入できた(山本)。
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次年度使用額の使用計画 |
投稿論文の校正および学会で研究成果公表のために使用する(関谷)。学会で研究成果を公表するために使用する(山本)。
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