研究実績の概要 |
有機結晶のドミノ転移が注目されているが,そのメカニズムの詳細は殆ど未解明である.本研究においては,ドミノ転移のメカニズムを解明することを目的として行った. 5-クロロ-N-サリチリデンアニリン(5CSA)結晶は光照射,または機械的刺激によりα形からβ形に転移する.二つの方法によって生成物を顕微ラマン分光法を用いて検出して多形転移のき機構について調査した.光照射法では,レーザーポインター光(405 nm)をα形結晶に照射してβ形への転移を誘起させた.機械的刺激法では,α形結晶をスパーテルで割ることでβ形への転移を誘起させた. 光照射後のラマンスペクトルの時間変化を測定したところ,光照射から1秒後のラマン強度が著しく減少し,アモルファス結晶が生成していることを示唆している. アモルファス結晶は,70分以内にα形結晶に再結晶化され,β形結晶への転移が進行した.210分後には,ラマン散乱観測領域の殆どの結晶が,β形結晶に転移した. 反応経路探索法(DS-AFIR計算)を用いて,5CSAのα形結晶のユニットセル数が4個と8個の場合について,遷移状態エネルギーを計算した.ユニットセル数が4個と8個の場合の遷移エネルギーは,それぞれ123 kJ/molと64 kJ/molであり,ユニットセル数が増えると遷移エネルギーが顕著に低下することが分かった. 上記の結果を基に,光照射により,結晶構造の変化に伴う分子間反発を減少させる空間が生じ,分子集団が転移する機構が示唆された.
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