研究課題/領域番号 |
15K13679
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
徳永 信 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40301767)
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研究分担者 |
村山 美乃 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (90426528)
磯谷 敦子 独立行政法人酒類総合研究所, その他部局等, 研究員 (20372188)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 老香 / 硫黄化合物 / 担持貴金属ナノ粒子 / 担持金ナノ粒子 / 含浸法 |
研究実績の概要 |
金と硫黄が高い親和性を有することはよく知られており、得られた担持金ナノ粒子の応用として、吸着脱硫を試みた。脱硫といえば、石油や天然ガスなどの燃料からの脱硫に固体触媒を用いるのが一般的である。我々は、酒類総合研究所の磯谷らの報告に着目し飲料、特に日本酒からの吸着脱硫を検討した。日本酒は原料米の加水分解、アルコール発酵を経て製造される。火入れ(加熱殺菌)により生化学的反応は止まるが、その後、ゆっくりと化学反応が進行する。その際、生じる好ましくない香りとして、老香(ひねか)というたまねぎ様の硫黄臭が知られており、この原因物質がジメチルトリスルフィド(DMTSであることを磯谷らは報告している。老香が発生すると、通常、酒造会社では活性炭処理を行い、原因物質を除去する。DMTSは 0.18 ppb という低濃度でも老香を発生するが、これを半分以下に抑えることができる。しかし、活性炭は、色々な有機化合物を吸着してしまう。特に極性の低いエステル類は、低極性の空孔を持つ活性炭によく吸着される。吟醸香の原因物質であるヘキサン酸エチルも吸着されてしまい、香りの薄い酒になってしまうのが問題とされている。我々は、金、銀、白金、パラジウムなどの各種の担持貴金属ナノ粒子が DMTS の吸着に有効であることを見出した。粒子径が 2.5 nm の担持金ナノ粒子では、10 時間以内にほぼすべての DMTS が吸着されるが、3.9 nm の金ナノ粒子では3日間を要する。粒子径が大きくなると吸着能力が下がり、金箔になるとほとんど吸着能を示さないことがわかった。Au/DMTS の比を変えて硫黄原子がやや過剰な状態 (Au/S < 1) になると吸着量は飽和し、ラングミュアプロットを取ると直線に乗ることから、ラングミュア型の単層吸着となっていることがわかった
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新開発の担持金ナノ粒子調製法の開発も順調に進み、さらに銀ナノ粒子による老香の吸着除去も効果が高いことがわかり、研究はおおむね順調に進展していると言える。金ナノ粒子を担持する場合、酸化物のうち、アルミナやセリアなどの塩基性担体や、チタニアなどの両性担体には問題なく担持できるが、シリカやゼオライトなどの酸性担体では担持が困難であることが知られている。これは、金などの貴金属を担持するときに一般的に使われる、析出沈殿法における金の沈殿物 Au(OH)4-と酸性担体間の静電反発が原因であると言われている。我々は、この問題を解決すべく、新しい含浸担持法を開発した。、一般的に水への溶解性が高いアミノ酸錯体に注目した。十数種類の天然および人工のアミノ酸を試したところ、多くのアミノ酸から錯体を得ることができた。これら錯体の水への溶解性は高く、必要最小限の量の水での含浸担持(ポアフィリング法)が可能になった。この金-アミノ酸錯体は適度に分解しやすく、焼成過程で速やかに分解し、同時に金が0価に還元され、ナノ粒子を形成する。金の場合、300 °C 程度に昇温して焼成するのが一般的であるが、X線吸収分光法の in situ 測定や熱重量分析により、塩化金酸よりかなり低く、例えば金--アラニン錯体の場合 170 °C 前後で分解し、3価から0価へ還元することが確認できた。これにより金の凝集が抑えられる。また、塩基性や両性の担体だけでなく、シリカなどの酸性担体や、活性炭などにも金ナノ粒子を担持することができた。今後、得られた金ナノ粒子を用いて、さらに研究を展開させる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、担持金ナノ粒子、銀ナノ粒子とも、DMTS吸着後の再生実験や、吸着状態の表面化学的、物理化学的検討を行う。吸着剤のシリカ担持金ナノ粒子は再利用が可能である。300 °C で焼成することにより吸着された DMTS を酸化して除去することができ、 3 回の再利用には問題なく用いることができた。しかしながら、さらに回数を増やした場合劣化が見られるかどうか、金の状態はどうなっているか、硫黄の状態はどうなっているかなど、詳細は不明である。また、担持銀ナノ粒子の場合、金と異なりラングミュア型の単層吸着にならない可能性もでてきている。また、表面原子数の割に、金よりも吸着速度や飽和吸着量が大きいことが示唆される実験結果が得られている。さらに、金と銀では再生のされかたなども異なる可能性もあるので、詳細な検討を行う。さらに、実際の日本での検討も行う。担持金ナノ粒子でも、担持銀ナオン粒子でも、DMTSなど硫黄の吸着のほかには行わないと考えているが、触媒として働いて、様々な化学反応に関与して、味や香りの変化を引き起こしてしまう可能性がある。この点に留意し、さまざまな担体に担持した金ナノ粒子、銀ナノ粒子を用意して検討する予定である。以前の検討では、日本酒からの吸着脱硫実験を機器分析と官能試験の両面から確かめる実験を行っている。その結果、機器分析でも官能試験でも、シリカ担持金ナノ粒子の有効性が確認できた。0.25 ppb の DMTS を 0.03 ppb および 0.01 ppb に低減できているが官能試験では有意差は見出されていないので、この点を解決する。今後、金やほかの貴金属での硫黄化合物の吸着様式や、焼成や還元による再生のされ方の違いなどを詳細に検討し、実用化につなげたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
使用したい消耗品の納期が間に合わなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
新年度に消耗品を発注する。
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