研究課題/領域番号 |
15K13685
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
寺田 眞浩 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50217428)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 有機分子触媒 / 不斉合成 / 触媒 / 水素結合 / 物質変換 |
研究実績の概要 |
a本申請研究では有機イオン性官能基を積極的に触媒分子に組み込むことで、従来の有機分子触媒が抱える課題を克服しようとするものであり、申請者のここ十数年来にわたる有機分子触媒の開発研究の集大成として「究極の有機分子触媒」の設計開発を提案するものである。その基本戦略は、電荷のやり取りを伴う反応系の活性化エネルギーを大幅に下げるため、反応開始時に高エネルギー状態を創り出し、生成系へと移った際に大きな安定化を受けるシステムを構築することにある。反応開始時における高エネルギー状態はイオン性を備えた官能基により創り出すことができ、有機イオン性官能基の特質に着目した従来にない分子設計に基づき、これに不斉認識など基質認識能を付与した高活性(不斉)有機分子触媒の開発を計画している。本研究では、新規二官能基型有機分子触媒として「強塩基性二官能基型有機分子触媒」を設計開発し、これらを触媒として用いた反応開発を計画している。平成27年度は「有機カチオンの特性を活用した強塩基性二官能基型有機分子触媒の設計開発」を中心に検討した。 本研究では酸性官能基に代わる水素結合ドナーとして非古典的水素結合、すなわちC-H…X相互作用に着目し、これを積極的に活用した分子設計により、高活性の獲得と高度な立体化学制御能を備えた二官能基型有機分子触媒の設計開発を目指す。本研究計画で主役となる二官能基型有機分子触媒は、従来型の酸性官能基の代わりに4級アンモニウムに代表される有機カチオンを非古典的な水素結合ドナー(C-H…X)とし、これに有機強塩基を組み合わせることで、水素結合ドナー/アクセプターを備えた分子設計を特徴としている。平成27年度は、有機カチオンとして4級アンモニウムを、有機強塩基としてグアニジンを選択肢、これらを軸不斉ビナフチル骨格に導入した触媒を設計し、その合成と触媒反応への適用を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度は、二官能基型有機分子触媒として、軸不斉ビナフチル骨格に4級アンモニウムとグアニジンを導入した触媒分子の合成を計画した。この際、二つの官能基の導入位置を3,3’位とした場合と6,6’位とした場合と二通りの分子を設計し、その合成を主に検討した。強塩基性の官能基とイオン性の官能基を併せ持つ分子のため、触媒分子自体の合成ルートを確立することはできたものの、精製に過程に多くの課題を抱え、多くお時間を費やした。最終的に精製には成功したものの、効率的な方法を見出すには至っておらず、今後の課題として残されている。精製した触媒分子をMannich反応に用いて活性ならびにエナンチオ選択性について確認した。残念ながら顕著な反応促進効果は見られず、また、エナンチオ選択性も低くとどまり、作業仮説に誤りがあるのか、あるいは触媒分子設計自体に問題があるのか、現時点では明確にすることが出来ておらず、分子設計を見直した新たな構造の触媒の開発が必要となっている。当初、触媒の合成自体が危ぶまれる状況であったなか、合成に成功したこと。また、扱いにくい官能基を導入しているため、精製自体の困難さが問題視されているところ、触媒の合成と精製が可能となったという観点からは進展は見られたが、一方で、触媒機能の評価が十分できておらず、進捗はやや遅れていると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
4級アンモニウム塩と強塩基性官能基を導入した触媒分子の合成に関しては概ね確立することが出来たが、精製法に関しては未だ十分な方法論の確立に至っていない。一方で、触媒機能評価の結果は作業仮説を必ずしも支持する結果とは言えない状況である。従って、今後は触媒分子の設計を見直す必要がある。軸不斉ビナフチル骨格は入手しやすい不斉源であり、構造的な自由度も低いため、引き続きビナフチル骨格を不斉源とする分子設計を継承する。一方で二つの官能基の導入位置に関しては、問題があると考えられるため、今後は、導入位置の検討を中心に進める予定である。例えば、ビナフチル骨格の2位と3’位など、近接し過ぎずに、かつ反応場の制御に効果的な距離感を保って二つの官能基を導入するよう、分子設計を工夫する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画で予定していた以上に触媒の精製に多くの時間を取られてしまったため、計画通りに研究を進めることができず、試薬や反応溶媒などの消耗品の使用が大幅に減ってしまった。その結果、今年度の予算を消化することができなくなり、次年度使用額が生じてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
今後は、これまでの精製法を早急に改善し、効率化することで、触媒の合成、設計を迅速に進める必要がある。幸い、精製が可能となったことから、この実験手法を改善することで触媒合成、精製を効率的に進められるようになると考えている。これらを円滑に進めることで、試薬や反応溶媒などの消耗品の使用が増える見込みであり、計画に沿った予算消化が見込めると考えている。
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