「持続可能な循環型社会の構築」に即した「モノづくり」は益々重要となってきている。2000年を前後し、触媒機能を有する有機小分子が「有機分子触媒」として一躍脚光を浴びるようになった。しかしながら、触媒活性、反応の多様性等、実践的な合成プロセスとするには解決すべき多くの諸問題を抱えている。本研究では有機イオン性官能基の特質に着目し、この鍵官能基を分子設計に組み込むことで、従来研究における課題の抜本的な解決を図ろうとするものであり、申請者のここ十数年来にわたる有機分子触媒の開発研究の集大成として「究極の有機分子触媒」の設計開発を提案した。新規二官能基型有機分子触媒として「強塩基性二官能基型有機分子触媒」ならびに、「強酸性二官能基型有機分子触媒」の設計開発を検討した。「強塩基性二官能基型有機分子触媒」では酸性官能基に代わる水素結合ドナーとして非古典的水素結合、すなわちC-H…X相互作用に着目し、これを積極的に活用した分子設計により、高活性の獲得と高度な立体化学制御能を備えた触媒設計を目指した。従来型の酸性官能基の代わりに4級アンモニウムに代表される有機カチオンを非古典的な水素結合ドナー(C-H…X)とし、これに有機強塩基としてグアニジンを組み合わせることで、水素結合ドナー/アクセプターを備えた触媒を開発した。一方、「強酸性二官能基型有機分子触媒」では、イオン性官能基、特に、超強酸と弱い塩基から生成するイオン性共役酸が有機溶媒中で比較的強い酸性を示すことに着目し、この有機イオン性酸性官能基と有機酸を、分子内水素結合を介して相互作用させることで酸性度の向上を図る触媒分子設計を行った。その結果、従来のキラルブレンステッド酸触媒では生成物を得ることが出来なかった反応系で生成物を得ることに成功した。立体選択性については依然として改善の余地があるが今後の継続研究によってその向上が期待される。
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