ジアゾ化合物を経由しないメタルカルベン種の発生ということで各種取り組みを実施してきた。研究期間を延長して、昨年までに想定外の成果として見いだしたルテニウム(2価、3価)の複核錯体を触媒とする反応系について検討を網羅的に実施した。その結果、ヨードニウムイリドを出発原料とすることで、極めて効率的にルテニウムカルベン種を発生させることに成功した。さらに、キラルカルボン酸から調製したキラルルテニウム(2価、3価)複核錯体を触媒とすることで、当初想定していた以上の成果として触媒的不斉化にまで成功した。触媒的不斉シクロプロパン化反応は、幅広いスチレン誘導体に対して適用可能であり、いずれにおいても90%を超える高い化学収率で目的物が得られ、エナンチオ選択性についても最高で95%eeにて目的物が得られた。一方、キラルアミドから触媒を調製した場合には、選択性が中程度にとどまることがわかった。適切なキラル環境の構築が鍵となることを意味する重要なデータである。キラルルテニウム(2価、3価)複核触媒構造については、質量分析により分子組成を確認した。X線結晶構造解析においては、まだ精度、解像度は十分ではないものの一定の構造解析には成功し、C4対称型の構造を有していることも明らかにした。以上、研究期間を延長して検討を実施することで、当初想定していた触媒系とは異なるルテニウム触媒の有用性を見いだし、ジアゾ化合物を回避した反応を実現することに成功した。今後は、挑戦的萌芽研究で得られた予備的成果を、基盤研究や新学術領域研究の中に組み込みながら発展させ、本格的な展開を目指していく。
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