研究実績の概要 |
最近,申請者らは「ピ リ ジ ル メ チ ル ア ミ ノ 基( P y C H 2 N H-)」を ビ ナ フ チ ル 骨 格 に 組 み 入 れ た ,N 4 型 配 位 子 P h - B I N A N - H - P y (Ph-N4) および PNN 型配位子 Ph-BINA N-Py-PPh2 (Ph-PNN)を設計・合成し,cis-α および fac 選択的に様々な正八面 体金属錯体を形成することができることを見いだした.この特性は触媒 活性種の単一化に有利に働くこ とが強く期待されるが,実際に. 対応するルテニウム錯体が芳香 族ケトン類やキレート性・非キレ ート性を問わず立体的に嵩高い ケトン類を効率的に不斉水素化 することにはじめて成功した.この化学を基盤とした卑金属錯体触媒の合成および高性能化を目的としている. 本年度では,これら配位子をもつ卑金属錯体ライブラリーの構築およびその構造解析をおこなった.配位子のビナフチル骨格 3 位の 置換基による反応性・選択性への影響は大きいと推測されるが,まずはフェニル基に定め, Ph-PNNをもつ各種卑金属錯体合成を試みた結果,鉄(II)において錯体を定量的に得ることに成功した.同時に,フェニル基を持たないH-PNNの鉄錯体の合成にも成功し,それらの錯体を結晶構造解析することによってフェニル基と錯体構造との関係性を明確にすることができた.H-PNN錯体においては,P,N,N配位原子と対アニオンの一つを底面とする四角錐構造をとるのに対して,Ph-PNN錯体では三方両錘をとる.Ph基とピリジルメチル基との立体反発によりこのような違いが見られ,触媒反応開発に向けた重要な知見が得られたと考えている.Ph-N4配位子に関しては, 鉄(II)および銅(II)のM(OTf)2 型錯体の合成 に成功している.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,錯体ライブラリを基盤として残りの2項目を実施する. DACat 機構の働きやすいケトン類を第 1 候補基質とし.「キレート・非キレート型」と「立体要請度」をパラメータに基質を 4種類に分類する.反応条件探索の標準条件を,基質触媒比100 ,50気圧とし,アルコール系プロトン性溶媒,ハロゲン系・エーテ ル系・ベンゼン系非プロトン性溶媒を検討する.反応性獲得後には,条件を最適化して,基質触媒比10000 以上,水素圧 5気圧以下の達成を目指す.各基質カテゴリーに対応する基質一般性を調査する.イミンやオレフィンにおいても,ケトン基質と同じ分類法に従う.イミン窒素原子上の置換基はベ ンジル基とフェニル基を限定する.オレフィン基質においては,Chirikの結果も参考に,デヒドロアミノ酸エステル基質を中心に反応条件を探索する計画である. 反応性・選択性の獲得後は直ちに,速度論実験・速度式解析,重水素標識実験,同位体効果実験を中心に,これまでに得られた錯体の構造情報と組み合わせて反応触媒サイクルの全貌を把握し,作業仮説を修正するための糧としたい.現在,「卑金属ヒドリド」を活性種と想定している.このヒドリド体の電子的・軌道的特性の深い理解が性能向上に不可欠と考えているが,物質科学国際研究センターからの協力を得て対応する計画である.
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