プロキラルなケトンのボランによる不斉還元反応をモデル系として,円偏波マイクロ波照射がエナンチオ選択性に及ぼす効果を確認する実験を行った。同一ロットの不斉触媒と還元剤の混合溶液に対して,照射無し(blank)もしくは右旋照射(RL)・左旋照射(LR)しながら基質(アセトフェノン類)を滴下し、得られた還元生成物の不斉収率から円偏波マイクロ波の影響を調べた。円偏波マイクロ波照射装置は,2.45 GHz / 50 Wと12.4 GHz / 1Wを作成した。その結果,光学活性なボラン触媒を用いる反応系に対して12.4 GHzの円偏波マイクロ波を照射すると、右旋条件の不斉収率はブランクに対して向上したのに対し,左旋条件では低下する傾向が観測された。しかし,2.45 GHz / 50 Wの円偏波マイクロ波照射条件はいずれも向上に作用し,円偏波の影響よりもマイクロ波効果を考慮すべき結果が得られた。またラセミ触媒を用いて絶対不斉合成の観測を試みた。12.4 GHz / 1 W,2.45 GHz / 50 Wの円偏波マイクロ波のいずれの場合も,影響は1 %以下もしくは2%程度であり,再現性を含めた検討が必要である。 一方,半減期17.3 分のラセミ体ビアリールラクトンのアトロプ異性化平衡に対する円偏波マイクロ波の照射効果を調べた。2.45 GHz / 20 W円偏波照射後に速やかに深冷しラセミ化を抑制,引き続く還元反応により,ラセミ化が起こらないビアリールジオールとして鏡像体過剰率を調べた。この場合もHPLCの検出限界に近いことが懸念されたので,統計処理による解析を行った。その結果,別途合成したラセミ体の多数回測定から得られる95%信頼区間にあるものの,左旋と右旋では逆方向に鏡像体過剰率が観測される実験条件があることを見出した。今後,再現性を含めて,統計処理によるデータの確度向上が求められる。
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