研究課題/領域番号 |
15K13702
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
成田 吉徳 中部大学, 総合工学研究所, 教授 (00108979)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 二酸化炭素還元 / 卑金属触媒 / 二核錯体 / 錯体触媒 / 人工光合成 / 金属酵素 |
研究実績の概要 |
二酸化炭素の有用な炭素資源への触媒的変換反応においては次に挙げるような多様な課題が存在する:①還元過電圧(過剰エネルギー)、②生成物選択性、③プロトン還元(水素発生)、④触媒耐久性、⑤触媒として貴金属元素使用。 一方、Ni-Fe複核中心を持つ生体内金属酵素においては、活性中心に卑金属イオンを用いて100 mV以下の低い過電圧で一酸化炭素への選択的還元を実現している。上記の諸課題を解決すべく、各種金属イオンを自在な距離で保持できるポルフィリン二量体配位子を用いて、その鉄二核錯体を合成し、これを分子触媒として二酸化炭素の電解還元反応を行った。鉄イオン間距離を最適とした鉄ポルフィリン二量体触媒により酸触媒を用いることなく、高い触媒回転数と低い過電圧での二酸化炭素を実現し、一酸化炭素への選択的還元が達成された。また、長時間の定電位連続電解反応においても触媒活性の低下は全く見られず、高い触媒耐久性も実証できた。このようにして、研究計画当初に示した解決すべき課題の全てを満たし既知の(錯体)触媒を大きく凌駕する新規錯体触媒の創製に成功したばかりか、二酸化炭素還元のための触媒の設計指針が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
金属酵素を規範として、1,2-フェニレンをリンカー分子とした鉄ポルフィリン二量体について各種の電子的特性を有するメソ位置換基を系統的に合成し、その電気化学的な二酸化還元特性を10%水含有DMF溶液中において調べた。メソ位置換基をパーフルオロフェニル基とした場合、還元反応開始過電圧は0.41 V となり、これまで報告された各種金属錯体触媒に比しても十分低く、また触媒回転速度TOF 4300/秒、Faraday効率95%で選択的な一酸化炭素生成を実現した。酸触媒を共存させること無く、中性溶液中での高い触媒活性と低過電圧の実現は、金属酵素に見られるように2つの金属イオン中心の距離が重要であり、両金属イオンが協奏的に二酸化炭素還元に関与していることで合理的に説明できた。また、本触媒反応は電気化学および鉄(II)錯体と二酸化炭素の反応の紫外可視分光変化により、二核鉄(II)錯体への二酸化炭素分子の結合により開始することが明らとなっており、鉄ポルフィリン単量体が二酸化炭素と鉄(0)価相当状態になって初めて反応が開始するのと比べると、本二量体は低い還元状態で二酸化炭素の捕捉を行うことが大きな触媒回転速度の実現につながったと理解できた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の成果を元にして、次の2方向から研究を進める。 (1) 自由度の高い触媒分子合成:反応中間体の分光学的研究より、二酸化炭素分子が二核鉄(II)イオンに架橋配位することで反応が開始することが判明している。このため、二酸化炭素分子の架橋配位の会合定数を高めることが触媒活性向上につながるため、金属間距離の自由度を高くし、induced-fitにより二個の鉄イオンが二酸化炭素分子捕捉のための最適位置を取りうるように柔軟なアミド結合により2つの鉄ポルフィリン分子を固定した二核錯体を用い、メソ位に電子吸引基あるいは電子供与基を導入した触媒分子を合成し、その電気化学的還元反応を明らかにする。 (2) 電極表面への固定化:電極表面に化学結合により触媒分子固定した電極を作製し、不均一電極触媒としての反応特性を明らかにする。この方法により、水溶液中での二酸化炭素還元が実現できる。また、n型半導体となる金属酸化物を光陰極とし、その表面に同様の方法により触媒分子を固定することで、光励起下での二酸化炭素還元反応の実現に向けて検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
分析センター機器使用料が予算より僅かに少なかったために、若干の予算残が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
当該年度の分析センター機器使用料として使用予定。
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