二酸化炭素還元の有用な炭素資源への触媒的変換反応においては次に挙げるような多様な課題が存在する:①還元過電圧(過剰エネルギー)の最小化、②生成物選択性、③プロトン還元の抑制、④高い触媒耐久性、⑤卑金属触媒の利用。 一方、Ni-Fe複核中心を持つ生体内金属酵素においいては100 mV以下の低過電圧で選択的な一酸化炭素への還元を実現している。二核錯体中、Niイオンが二酸化炭素分子の炭素原子へ求核的攻撃を行い、Feイオンはルイス酸として酸素原子に配位することで、C-O結合の切断を促進していると考えられる。そこで、上記の二酸化炭素還元触媒反応に関わる諸課題を解決すべく、各種金属イオンを自在な距離で保持できるポルフィリン二量体配位子を用いて、その鉄二核錯体を合成し、これを分子触媒として二酸化炭素の電解還元反応を行った。特に、鉄イオン間距離が5.5~6オングストローム程度で、2つの鉄イオン間に二酸化炭素分子が架橋配位可能なオルトフェニレンリンカーにより結合された鉄ポルフィリン二量体は大きな触媒活性等を示した。一方、鉄イオン間距離がより長いメタフェニレン結合二量体では単量体と同等の活性しか示さず、イオン間距離が活性に大きく影響していることを実証した。この触媒により酸触媒を用いなくても、高い触媒回転数と低い過電圧を実現し、一酸化炭素への選択的還元が達成された。また、長時間の定電位連続電解反応においても触媒活性の低下は見られず、高い触媒耐久性も実証できた。以上のように、二酸化炭素の二電子還元においては二酸化炭素分子が架橋配位可能な二核金属錯体構造が重要であるとの触媒設計指針を示すことができ、研究計画当初に明示した解決すべき課題の全てを満たす錯体触媒の創製に成功した。
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