マクロサイクル触媒を用いた高分子反応では、反応後期における加速効果など、通常の高分子効果では説明がつかない特徴的な現象が観測される。本研究は、この新しいタイプの高分子反応を精査し、0次反応経由の高分子反応の価値と意義を示すことを目的としている。最終年度となる29年度は、Pd(II)マクロサイクル触媒を用いた内部アルキンのブロモアリル化反応について検討を行った。マクロサイクル触媒は高分子基質の反応において、非環状のマクロサイクル触媒よりも速く反応が完了することを見出した。前年度までに検討してきたヒドロアミノ化反応では、Pdマクロサイクルの内孔に配位するよう、高分子基質にピリジン部位を導入してきた。しかし、ブロモアリル化反応で用いた高分子基質は、ピリジン部位を含まないポリエーテルであり、配位点は反応点でもあるアルキン部位のみである。このような弱い相互作用部位であっても、高分子基質において非環状触媒より反応が速く完結するという結果から、ポリマー鎖がPdマクロサイクル触媒の内孔を通過した擬ロタキサン構造で反応が進行したことが示唆された。低分子の基質ではこのような明確な反応速度の違いは見られなかったことから、高分子基質の反応において、特にマクロサイクル反応場の効果が得られるということがわかった。また、これまで行っていた分子内ヒドロアミノ化反応と異なりブロモアリル化反応は分子間反応である。分子間反応においても、マクロサイクル反応場が触媒ー高分子基質複合体の解離を抑制するために、高分子反応には効果的であることが明らかとなった。また、ロタキサン構造により高分子基質が受ける影響について調べるため、高分子鎖にマクロサイクルを1つだけ含む高分子[2]ロタキサンを合成し、熱物性評価を行ったところ、マクロサイクルによる結晶化阻害効果が観察された。
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