研究課題/領域番号 |
15K13710
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
吉澤 一成 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (30273486)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 接着 / 量子化学 / エポキシ樹脂 |
研究実績の概要 |
接着剤を用いた材料の接合は工業的に非常に重要な技術であり、自動車産業や航空産業をはじめとする多くの工業分野で利用されている。材料の接着性を向上させるために多くの研究がこれまでに行われているが、接着がどのような界面相互作用により起こるのかは十分には明らかにされておらず、古くから議論の対象となっている。特に原子レベルでの接着界面の解析は実験的研究では非常に困難であり、理論計算によるアプローチが期待されている。理論計算による接着機構の解析は今までほとんど行われていなかったが、近年の計算機や計算理論の進歩により表面や界面といった大規模系の計算が可能となった。今年度は量子化学計算を用いて、金属表面とエポキシ樹脂系接着剤およびガラス表面とエポキシ樹脂との接着相互作用に関する分子論的な研究を世界に先駆けて行い、水素結合が接着相互作用の要因になっていることを明らかにした。とくに接着界面に存在する吸着水の影響について理論的な考察を行った。計算モデルには接着剤分子としてビスフェノールA型のエポキシ樹脂を、被着材表面として水酸化されたγ-アルミナ面および同様に水酸化されたシリカ表面を用いた。接着界面に働く接着力は接着強度に強く関係すると考えられるが、実験による接着強度の測定では、濡れの不完全さや、被着材や接着剤の内部応力により原子間にはたらく最大接着力は過小評価されてしまう。そこで、理論計算から独自の手法を提案し、最大接着力を理論的に求めることに成功した。吸着水の層の厚みは接着力に極めて重要な効果を及ぼし、とくに吸着水の層の厚みが増すと界面の接着力が急激に低下することを理論的に明らかにした。この理論結果は接着現象の理解に資するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究代表者らは、量子化学計算を用いて、金属表面とエポキシ樹脂系接着剤およびガラス表面とエポキシ樹脂との接着相互作用に関する分子論的な研究を世界に先駆けて行い、水素結合が接着相互作用の要因になっていることを明らかにしている。とくに接着界面に存在する吸着水の影響について理論的な考察を行い、吸着水の層の厚みが増すと界面の接着力が急激に低下することを理論的に明らかにしている。この理論結果は接着現象のより良い理解に資するものである。経験の科学と思われがちな接着現象を量子論的に考察解析した意義は大きい。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者らは水素結合が接着相互作用の要因になっていることを明らかにしているが、理論化学的手法に基づき、接着剤と被着剤の界面相互作用をさらに詳細に解析する予定である。具体的には接着に関与する水素結合における軌道相互作用の役割に注目する。このような視点はこれまでに全くなく、接着現象の分子論的理解を深めることに資するものと期待される。また理論と実験の連携をスタートさせる予定である。
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