研究課題/領域番号 |
15K13721
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉本 敬太郎 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (60392172)
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研究分担者 |
安川 智之 兵庫県立大学, その他の研究科, 准教授 (40361167)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | バイオ分析 / メカノバイオロジー / 幹細胞 / 誘電泳動 / マイクロデバイス |
研究実績の概要 |
本研究では、細胞に対して物理刺激を発生させる原理として、細胞の誘電泳動現象を利用することを着想し、細胞に任意の強さの物理刺激を加えることのできる電極デバイスを考案した。誘電泳動による細胞操作は、細胞に様々な強さ、時間およびタイミングの力学的刺激を与えることのできる自由度の高い手法である。初年度では、細胞に任意の物理刺激を精度良く与えるための誘電泳動用電極デバイスのプロトタイプの作製と、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞株 UE7T-13 を用いて同デバイスの機能評価を行った。 まず、既に他のグループによって誘電泳動が報告されていたヒト骨髄性白血病細胞株 HL-60 を、構築したデバイス流路内に流し込み、誘電泳動前後における泳動挙動を確認した。新規に設計した電極デバイスを用いた場合でも、周波数を変化させることで同一溶媒中において正負逆の誘電泳動を発現させることが可能であった。同様にUE7T-13の誘電泳動を行ったところ、同様の現象が観測された。細胞の泳動挙動は周波数以外に、細胞懸濁液の導電率、細胞種、電極の設計の違いによって変化し、溶媒の導電率が高い溶液では誘電泳動力が弱くなった。正の誘電泳動では電極上に細胞が押しつけられ、負の誘電泳動では電極間に細胞が集積して細胞塊(スフェロイド)を形成した。発現に与える影響を調査するため、Real Time RT PCR を用いて正の誘電泳動後における遺伝子発現量の変化を測定した。細胞が物理刺激を受けた際に発現量が低下するとされているADGRE5、骨芽細胞分化マーカー RUNX2、脂肪細胞分化マーカー PPARγ の各種伝子の発現量が優位に低下するという結果が得られた。以上の結果から、本デバイスを用いて MSC に物理刺激を与えることができること、さらに分化に関連する遺伝子が変化することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、細胞に物理刺激を加えるための新しい誘電泳動用電極デバイスを作製することに成功した。同デバイスで正の誘電泳動を生じさせることで、間葉系細胞株である UE7T-13 を強い力で電極に対して集合させることが可能となった。加えて、紙面の制約の都合上成果報告書には記載していないが、UE7T-13 と HL-60 の2種の細胞が混合した溶液中の細胞を一斉分離することにも成功している。今後、実験条件を最適化することで、様々な細胞を選択的に電極にトラップする条件が見出されれば、本実験で設計した電極を用いて、複数種の細胞を含む細胞懸濁液から単一のある細胞種だけを分離、回収することも可能となる。また、同現象を利用する細胞塊 (スフェロイド) を作ることや、細胞を分離と物理刺激の負荷を同時に行うこと、2種の細胞を任意のパターンに配列したまま培養することなど、幅広い展開が考えられる。また、成果報告書に記載したとおり、本デバイスによる物理刺激で間葉系細胞株UE7T-13 の分化関連遺伝子発現量が大きく変化するという大変興味深い現象を見出した。成果報告書には記載していないが、誘電泳動を行った後でも、約 80% のUE7T-13細胞が生存することを確認している。以上のように、当初期待した以上の成果をあげることができた。
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今後の研究の推進方策 |
正の誘電泳動同現象を利用して1時間37°C で UE7T-13 に対して物理刺激を加えたところ、UE7T-13 の遺伝子発現量は NESTIN で低下が見られたものの、期待したほどの大きな変化量というわけではなかった。原因として、十分な強さの物理刺激を細胞に提供できなかったこと、力を与えていた時間が短かったことなどが挙げられる。今後は、誘電泳動で発生している力の大きさを測定し、誘電泳動誘電泳動力を強めること、誘電泳動を掛ける時間を長くすること、などを検討する。同時に、細胞死を可能な限り抑える培養・インキュベート条件を調査、見出す必要があると考える。間葉系幹細胞は中胚葉系の細胞であるため、骨芽、脂肪、軟骨、筋肉などの細胞に分化しやすい。同細胞を用いて、内胚葉系細胞への分化関連遺伝子発現量を調査すると共に、細胞をiPS細胞に替え、内胚葉系および外胚葉系細胞への分化関連遺伝子の発現量を調査することを予定している。さらに、バイオエタノールで注目されている藻類細胞に本技術を適用し、バイオエタノールの生産効率と力学的刺激の関係性などについての研究を開始したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度購入予定であったが、実験で使用予定の無かった細胞株一個の予算(約24000円)が余ったので次年度に繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
実験で用いる細胞の購入に利用する。
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