研究課題
本研究では深紫外超短光パルスを光源とする多光子イオン化質量分析計を開発し、フラグメントイオンを抑制できる新しい質量分析法について検討した。これを実現するため、チタンサファイアレーザー(800 nm)の第三高調波(267 nm)の光パルスを圧縮する方法について研究した。まずエタロンの機能をもつ誘電体鏡によりスペクトル波形を整形したが、レーザーにより損傷したので本方式については断念した。次いでインパルシブ誘導回転ラマン散乱によるスペクトル領域の拡大について検討した。その結果、4本のスペクトル線を発生できたが、強度が弱く十分な結果が得られなかった。そこでキセノンガスを用いて相互位相変調によりスペクトル幅を拡大する方法を試みた。その結果、プローブ光単独でも自己位相変調によりスペクトル幅が5倍拡大できることがわかった。しかし紫外域では空気の分散が大きく、空気中を伝播してチャープした光パルスを補正するための負分散鏡が入手できず、プリズム対を用いる方法も自己収束による光パルスの歪みが大きかった。そこでチタンサファイアレーザーの基本波を予め負にチャープさせる方式について検討したところ、発生する光パルスのチャープ量を調整できることがわかった。その光パルスを自己回折周波数分解光ゲート法により測定したところ、75 fs前後の光パルスを24 fsまで圧縮できることが判明した(理論限界のフーリエ限界パルス幅は15 fsであり、条件の最適化により更なる光パルスの圧縮が可能)。得られた光パルスをレーザー多光子イオン化質量分析計に導入し、2光子イオン化が予想されるペンタクロロベンゼンを測定したところ、光パルス圧縮により信号強度が明瞭に増大することが確認できた。これらの結果より、本方法は過酸化アセトンなどの爆発物の分子イオンの観測と信頼性の高い分析に広く利用できると期待される。
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