研究課題/領域番号 |
15K13730
|
研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
上田 岳彦 鹿児島大学, 理工学域工学系, 准教授 (80293893)
|
研究分担者 |
高梨 啓和 鹿児島大学, 理工学域工学系, 准教授 (40274740)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 衝突断面積 / CCS分布 / 衝突実効温度 / T-Wave / トラジェクトリ / 飛跡解析 / PTPWs / 環境変化体 |
研究実績の概要 |
平成28年度には、すでに前年度に確立したCCS(衝突断面積)推定プログラムを用いて、一般的な低分子化合物のCCS分布の推定を試み、研究分担者が測定した実際のCCS分布との比較検討を行った。奇妙なことに、典型的なターゲットとして選んだ一連の農薬環境変化体において、シミュレーションと実測が必ずしも一致しない例に遭遇することが珍しくなく、これが近年使用例が増加している新世代のCCS決定実験法(T-Wave IMS法、Trapped Ion Mobility法)の挙動によるものであること、またその非平衡熱力学上の換算衝突見かけ温度が平行温度からかなりかけ離れているため、モーメント輸送量が単純なIMSチャンバを仮定した場合よりも大きく異なっていることなどが明らかとなった。 そこで本研究では、後者の換算衝突見かけ温度(Teff)を自由に再設定できるようにプログラムを改善し、実験的に求められたTeffを採用することでCCS分布のシフトに関する実験との差異を大幅に低減することに成功した。また、前者に関しては古典的ながら新世代のCCS決定実験法におけるイオンの飛行挙動をモデル化することにより、単純なMason-Schamp方程式では解釈できないような複雑な挙動を再現することに成功した。これらの改善点を反映させ、新たにCCS分布解析を行ったところ、実験値との一致は非常に改善された。これらの成果を国内外の関連学会で発表し、応用分野の中でも特に農薬の環境変化体についての分析を可能とする実践的な改善策について新たな着想を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の実績から、適切なコンフォーマー分布を生成すれば、グローバルミニマムな構造を持つ分子イオンのコンフォーマーが必ずしもイオン移動度実験でのイオンの挙動を代表しないことを見出したが、CCS分布という観点からも無視できない実験からのズレが観測され、それが系の準平衡挙動を代表するパラメーターである換算衝突見かけ温度(Teff)として反映されることに気づいた点がやはり大きな進捗であった。研究分担者の示す実測値との一致を目指すうえで、まずこのTeffを調整することが重要であり、実測した中ではほぼすべての分子イオンについてある特定のTeffを仮定することで実測値を精度よく推定できることがわかった。この結果、課題は再びCCS分布の形状を再現することに立ち戻り、むしろ分布の時間平均像がアンサンブル平均像と一致することを示すことで、分子動力学法によるCCS分布計算を目指すことに一定の勝算が得られるものとの確信が深まった。
|
今後の研究の推進方策 |
実績としてすでに分布を作り出してからそれを平均した値が実験結果と一致するための計算法の改善が完了しているため、今後、分子動力学的にコンホメーションの変化を追跡しながら、衝突断面積の時間平均値を計算するプログラムを開発し、レナードジョーンズポテンシャルおよびドリフトガスとの四重極相互作用のパラメーターとの実測値との相関から各パラメーターを最適化する研究へと移行する予定である。これは、分布平均と時間平均の等価性に基づく系のエルゴード性を証明したことになる。また、分子動力学法とは別に、TD-DFT法により非経験的に衝突断面積を決定するというアプローチをとればパラメータ最適化に費やす計算時間を短縮できる可能性もあるため、後者は研究推進のためにはある一定の意義があるものと考えて同時に検討していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本来大規模数値計算用のスーパーコンピュータ使用料約50万円を計上する予定であったが、プログラムの修正と機能テストを先行するため、いったん小規模メモリ・CPUコア数のアカウントで年度初めに契約し、その後体制が整った段階で大規模計算が実行可能なアカウントへ移行することに変更した。結果的にはその移行までに時間がかかり、大規模計算を含む検証実験を翌年度に利用することとし、プログラム開発を当該年度に優先したことによる。
|
次年度使用額の使用計画 |
上記理由により平成29年度に大規模アカウントを利用した数値計算を予定しており、当初予定よりもスーパーコンピュータ使用料が大幅に増額となる予定である。
|