研究実績の概要 |
電場で加速された分子イオンが希薄ガスと衝突する際の衝突断面積(CCS)を推定するために、分子動力学法により生成した多数のコンフォーマーからなるアンサンブルについて組織的に運動量移動断面積を算出し、CCSの分布とその時間・アンサンブル平均から実際のイオン移動度を推定するアルゴリズムを構築した。 これは、RDKit、Confab、Balloon、またはConflexなどのコンフォーマー生成アルゴリズムを用いたアンサンブルのひとつひとつに対してエネルギー極小化を経て多数の局所平衡構造を作成し、得られた個々の局所平衡コンフォーマーに対する気体分子衝突トラジェクトリーの追跡を1,000,000回繰り返すことにより達成した。エネルギー極小化は予備的にAmberまたはMMFF94力場により平衡化した後に、半経験的分子軌道法(PM7ハミルトニアン)により生成エンタルピー最小化構造を導くことで達成した。衝突のトラジェクトリーは、分子間相互作用として原子間のレナードジョーンズポテンシャルの総和に加えて部分電荷を用いた分極相互作用、および多原子気体との間の四重極相互作用を採用して古典論的運動方程式を仮定して計算した。ボルツマン方程式のChapman-Enskog解から運動量移行断面積のエネルギー積分を経てCCSを導出し、Mason-Schamp型の移動度に換算して実験値との比較を行った。 実測値としては、進行波型駆動力を用いるイオン移動度測定による微量な未知環境汚染物質の実験CCSを測定し、移動度の推算結果が一致することを確認した。しかし類似した異性体間で平均CCSの差が統計的有意になるほどには実験的にも推算アルゴリズムとしても精度を十分に上げることができなかった。それに対して、CCS分布の形状が2つの異性体間で差があり、それを利用すれば本成果から新しい異性体識別法を導出できることがわかった。
|