前年度の研究において、水溶液中放電プラズマを用いて、ナノサイズ孔を持つ酸化マンガン材料の合成と、孔サイズの作り分けに成功した。ところが、収率の向上、マンガン以外の金属酸化物を合成することによる汎用性の向上という二点の課題が浮上した。これらの課題解決のため、プラズマからの発光スペクトルを分析し、プラズマ内に存在する中間体を同定しつつ、放電条件を変えながら材料合成を行った。 まず、収率の向上を目的として、マンガンの持つ複合価数性に着目し金属イオンの価数制御や、酸化状態の制御を目標に、用いる溶液のpHや濃度条件を変えつつ合成を行ったが、収率の向上には至らなかった。孔サイズの統一された材料を合成するには、含まれる金属の価数の制御が不可欠である。そこで、反応場の価数の基礎情報を得るべく、複合価数性を持ちかつ発光スペクトルによる価数を識別しやすいモリブデンを原料として、反応場中での価数の推移を計測した。6価のモリブデン酸イオン水溶液中で放電したところ、プラズマからの発光スペクトル中には0、4、5価のモリブデンからの発光が観測された。この結果は、6価のモリブデンが水溶液中放電プラズマ中で水分子の解離により発生した水素ラジカルによって段階的に還元されることを示している。このことは、反応場に複数の異なる価数を有した金属イオンが存在することを意味し、ある価数に集中、制御するには、プラズマの持続時間を短くする、もしくは適当な強さの酸化剤を添加し、還元をある程度のレベルで抑制するなどの工夫が必要であることが分かった。一方で、複数の価数の金属イオンが存在することから、通常の化学還元では難しいような、複合価数を有する金属酸化物の合成反応場として応用できる可能性が示唆された。
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