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2015 年度 実施状況報告書

無発光イメージング法確立に向けた分子開発

研究課題

研究課題/領域番号 15K13735
研究機関筑波大学

研究代表者

百武 篤也  筑波大学, 数理物質系, 講師 (70375369)

研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2017-03-31
キーワードSHGイメージング / 第2高調波 / アゾベンゼン / バイオイメージング / 2光子顕微鏡 / 細胞膜
研究実績の概要

近年、バイオイメージング分野において、化学分野からは蛍光分子の発展、測定装置開発の分野からは2光子顕微鏡等の高性能装置の発展があり、この2分野の技術を融合することにより空間的には細胞の超高解像度のイメージングが可能となった。一方で、生きたままの細胞のダイナミクスをリアルタイムで観察する時間分解能に重点を置くと、イメージング技術にはまだまだ発展の余地が大きいことがわかる。
そこで我々は、細胞ダイナミクスをリアルタイムに追跡できる「速い」計測法に着目してきた。本研究では膜電位変化をリアルタイム観測できるSHGイメージング法を用いる分子開発を目的とした。SHGイメージングでは、レーザー光を中心対称性のない物質に照射し、その中で誘起される、非対称に変位する電子分極波の成分である第2高調波の強度変化を測定し、画像化する。SHGシグナルは分子の励起状態を経由せずに得られるため、対象物質の中心対称性の変化に対し、時間的に非常に速いシグナル強度変化を示す。この原理により、SHGイメージングでは、細胞の膜電位の変化に誘起される、細胞膜中の極性分子の動きを瞬時に捉えることが出来る。すなわち、膜電位変化をリアルタイムで観察できる。
しかしながら、SHGイメージング専用の分子は未だ存在しなかった。そこで本研究では、無発光性のSHGイメージング専用分子を開発し、ノイズ蛍光の影響を全く受けることの無いSHGシグナルを得られるようにした。次に、この無発光SHGイメージング色素の末端置換基による毒性の違い確認し、マルチモーダルイメージングをすぐに実行できる所まで到達した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

SHGイメージング専用分子が現在市販されていないため、イメージングには従来の蛍光分子を流用していることを知り、専用分子開発の必要性を痛感し、SHGイメージング分子は「無発光性」で良いこと、また無発光性の分子がSHGイメージングで使われた例は無い事が分かった。以上のことからSHGイメージング専用の無発光性分子開発の推進を第一の目的とした。具体的には、
①SHGイメージング専用の無発光性分子の性能を高め、無発光SHGイメージング法を確立する。
②そのためにまず、高い光安定性を示す無発光性アゾベンゼン膜染色色素の構造最適化を行う。さらに膜電位変化と同時に起こるSHGシグナル変化を捉える。
③「無発光SHG + 2光子励起蛍光」のマルチモーダルイメージングに発展させる。
上記の目的達成のため、まず、分子基本骨格をアゾベンゼンとした一連のイメージング色素をデザイン・合成した。アゾベンゼンは無蛍光性で、光退色しにくく、更に化学修飾が容易で取り扱いやすい。合成した全ての分子が溶液中および、人工細胞膜中で無蛍光性であった。さらに、酸素存在下、長時間光照射を行ったが、各分子は非常に安定で、光分解・光退色は確認されなかった。吸収スペクトルが溶媒の極性に大きく依存した。人工細胞膜中に取り込まれると各化合物の吸収帯が短波長シフトし、取り込まれる割合が算出できた。複数の化合物で、細胞導入後1000 nmパルス光を照射したところ、500 nmのSHGシグナルが細胞膜から観測された。また親水基がアニオン性の化合物では弱い細胞毒性が見られた。以上より、本研究の第一の目的である、無発光色素による、世界初のSHGイメージングの分子基盤技術はほぼ確立されたと言える。

今後の研究の推進方策

これまでに、アゾベンゼンを基本骨格としたSHGイメージング専用色素分子として、細胞膜の染色とSHGシグナルを発生させることができた。更に末端置換基による細胞毒性の違いを見出し、また、ランプ光だけでなく、高密度レーザー光照射下においても、光退色性がほとんど無視できるほど光安定性が高いことが示された。従って本年度はこれらを用いたマルチモーダルイメージングを確立する。マルチモーダルイメージングとは、細胞内部のイメージングは従来の蛍光色素を用いて行い、同時に細胞膜のイメージングをSHGシグナルで行うものである。本研究のSHGイメージング色素は、構造上の特性から、細胞の脂質二重膜の外側の層にトラップされるため、細胞内部に入り込むことはない。従って、細胞内部を染色する蛍光色素との分子間相互作用による消光等は起こらないはずである。さらに、SHGイメージング色素は無蛍光性であるため、細胞内に取り込ませた蛍光のシグナル検出に対するノイズシグナルを与えることはない。一方で、細胞に取り込ませた蛍光色素からもSHGシグナルは発生しない。すなわち、本研究の分子を用いることによって、同一細胞から互いに干渉しあわない2つのシグナルである2光子励起による蛍光とSHGシグナルを得ることができるのである。このマルチモーダルイメージングは予備的に成功しているため、これを更に推進する。さらにこのSHGイメージング色素によるSHGシグナル強度が、細胞膜電位に依存して変化することを明らかにする予定である。

次年度使用額が生じた理由

2016年度4月初旬の当該研究に関する学会旅費としておおよその額を残したため。

次年度使用額の使用計画

2016年度4月初旬の当該研究に関する学会旅費に使用した。残額は実験用消耗品を購入する予定である。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2016 2015

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件)

  • [雑誌論文] Producing a dual-fluorescent molecule by tuning the energetics of excited-state intramolecular proton transfer2015

    • 著者名/発表者名
      72.Tasaki, Satomi;Momotake, Atsuya; Kanna, Yoko; Sato, Tomoo; Nishimura, Yoshinobu; Arai, Tatsuo
    • 雑誌名

      Producing a dual-fluorescent molecule by tuning the energetics of excited-state intramolecular proton transfer

      巻: 14 ページ: 1864-1871

    • DOI

      DOI:10.1039/C5PP00088B

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [学会発表] ホルミル化アミノクマリンの蛍光特性と溶媒効果2016

    • 著者名/発表者名
      佐藤勇磨・百武篤也・新井達郎
    • 学会等名
      日本化学会第96春季年会
    • 発表場所
      同志社大学京田辺キャンパス(京都府田辺市)
    • 年月日
      2016-03-23 – 2016-03-27

URL: 

公開日: 2017-01-06  

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