大腸菌の線毛を構成する蛋白質の一つであるFimGを大腸菌を宿主とする発現系によって過剰発現させると,そのほとんどが不溶性画分として得られた.不溶性画分にある蛋白質を変性剤の塩酸グアニジンによって可溶化したのち,塩酸グアニジンを透析により完全に除去した後も,蛋白質は沈殿することなく水溶性を維持した変性蛋白質として得られることを見出した.蛋白質の自己集合体は,ゲル濾過(サイズ排除クロマトグラフィー)により精製することができ,蛋白質単体の分子量よりも遥かに大きな分子量の組織体が形成されていた.動的光散乱 (DLS)測定により,組織体のサイズを測定したところ,粒径が30nmの大きさの比較的均一なサイズ分布を持つ組織体が形成されていることが明らかになった.線毛を構成する蛋白の長軸の長さは約6nmであるので,相当数の蛋白質が自己集合して,安定で水溶性の変性蛋白質集合体を形成していると考えられる.逆平行βシート構造を主構成要素とするFimGは,変性状態ではβシート構造形成していないため,βシート構造を形成するペプチドと強く相互作用する可能性が高いことを利用して,アルツハイマー病の原因として知られるアミロイド線維形成の阻害ならびにアミロイド線維の可溶化を検討した.そして,この変性蛋白質集合体が、アルツハイマー病の原因と考えられているアミロイドベータの線維形成を阻害できることを明らかにした。アルツハイマー病の進行を阻害することができるシステムとして利用できると期待している。
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