研究課題
骨格筋に高発現する膜タンパク質ジストログリカンは、糖鎖修飾依存的に細胞外マトリックス(ECM)主要因子ラミニンと結合する。ジストログリカン上の糖鎖修飾不全により、ECMと形質膜の連結が損なわれ、筋ジストロフィーが惹起される。同糖鎖修飾不全と連関した筋ジストロフィーについて、多数の原因遺伝子が同定されてきた。しかし未成熟糖鎖を特異的に検出し、かつ治療法に結びつける研究は未だなされていない。本研究ではジストログリカン未成熟糖鎖を認識するペプチド配列を、多価型ペプチドライブラリーを用いたスクリーニング法により同定する。同定ペプチド配列を基にペプチド性プローブを作製するとともに、細胞外マトリックスと形質膜を結びつける機能を賦与することで、筋ジストロフィーへの治療法開発を目指している。平成27年度はスクリーニングのためのベイトタンパク質の調製、およびスクリーニングを行った。ジストログリカン上の糖鎖(マンノース基)にリン酸基が付加され、さらにリン酸基が修飾されること、さらにリン酸基への糖鎖修飾不全が筋疾患と連関することがそれぞれ報告されていることから、ベイトタンパク質としてマンノース基および未修飾のリン酸基を有するタンパク質の調製を試みた。HEK293細胞ジストログリカン安定発現株の樹立を行い、未修飾リン酸基のみを特異的に認識するIMACビーズを用いてアフィニティー精製を行った。その結果良好な精製度にてベイトタンパク質の調製に成功した。続いて未修飾リン酸基を特異的に認識するペプチド配列のスクリーニングを試みた。4本の同一ペプチド配列を有する多価型ペプチドライブラリーのスクリーニングを行ったところ、塩基性アミノ酸に富み、かつトリプトファン等を含む配列が候補として得られた。
2: おおむね順調に進展している
27年度は未成熟糖鎖を認識するペプチド配列を同定することが主であり、おおむね順調に進展している。未修飾のリン酸基を含有するタンパク質をベイトとするため、予想通り塩基性に富むペプチド配列が得られたが、単に塩基性アミノ酸のみでは高い結合性は持たないため、ペプチド配列の構造を特異的に維持するアミノ酸が必要であるものと考えられる。その考察については、NMR等を用いた構造決定により行いたい。
今年度はまず得られたペプチド配列に蛍光団を付加させることで、ジストログリカン未成熟糖鎖を認識する蛍光プローブの作製を試みる。現在同定されたペプチド鎖の末端あるいは中央部分の骨格部分(ライブラリーで不変の部分)への蛍光団付加を開始している。蛍光プローブの評価としては、ジストログリカン糖鎖修飾に関わる糖転移酵素遺伝子の欠損細胞株を樹立する予定である。続いて上記実験で検証された未成熟糖鎖結合ペプチドについて、スペーサーのポリエチレングリコールを介して既知のラミニン結合タンパク質ドメインを付加することで、架橋ペプチドを作製する。架橋ペプチドの両標的に対する結合性が損なわれていないかELISA等により確認する。糖鎖修飾遺伝子をノックダウンした筋細胞株C2C12を筋管へと分化させ、架橋ペプチドによる筋管表層上でのラミニン結合性を蛍光顕微鏡により評価する予定である。その結果をもとにモデルマウス適用実験などを遂行したい。
目的とするペプチド配列の同定が想定よりも順調に進んだため。
次年度使用額については、蛍光プローブの付加実験等に充当する予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件)
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