研究実績の概要 |
本研究では、フラクタルカインというアミノ酸72残基からなる糖タンパク質を化学合成した。この際、特定のアミノ酸に15N標識したアミノ酸をペプチド主鎖に導入するとともに、その標識度に濃度勾配(例えば、5, 10, 20%)をつけることで、HSQCスペクトルの信号強度からシグナルの帰属を容易にする15N-濃度勾配標識法の確立を検討した。標識するアミノ酸は、アラニン、ロイシン、イソロイシンを選び、糖鎖は複合型、高マンノース型を選び、それぞれ糖鎖がないフラクタルカインと比較した。糖タンパク質は、3-4つのペプチドセグメントにわけて、Boc法で合成し、順次Native chemical ligationで連結して、糖タンパク質全長を構築した。この際、糖鎖は、当研究室で確立した鶏卵からの単離法を利用して調製し、固相合成に利用することで糖ペプチドチオエステルを得た。そして得られた全長糖ペプチド鎖はフォールディングさせることで、正しい3次元構造を形成し、かつ特定の位置が15N原子で標識された糖タンパク質へと変換させた。次に、核磁気共鳴法による解析を検討したところ、糖鎖の有無に関係なくタンパク質本体の3次構造はほぼ同一であることがHSQCスペクトルから判明した。また、糖鎖付加部位の周辺の15N原子で標識したアミノ酸のT1緩和時間を測定した。その結果、それら緩和時間にも変化がなかったことからタンパク質の構造は糖鎖の有無に影響をうけないという例を見出すことができた。一方、これら糖タンパク質に温度をかける過程、ならびに、冷却する過程で円二色分光法(CD)によりその構造変化を追跡したところ、糖鎖がついたタンパク質のCDスペクトルは変化が少なかった。このことから、糖鎖はタンパク質の運動を抑制しているという新しい知見を得ることができた。
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