研究実績の概要 |
安定同位体である15N標識されたアミノ酸の標識度を換えつつ、数カ所に導入したタンパク質の化学合成をおこない、その3次元構造の解析、更には標識部位の動的挙動を解析した。 本年度もこの安定同位体の標識度を変える手法を利用し、2つ目のタンパク質の構造解析をおこなった。標的タンパク質は、アミノ酸40残基からなる小型タンパク質PhoSLで、N型糖鎖の還元末端に結合しているフコース残基に特異的に結合し、その結合定数は、抗体と同等であるものの、その構造はいまだ明らかにされていなかった。 そこで、PhoSLを化学合成し、その構造をNMRで解析することにした。全長の40残基を2つのセグメントにわけて固相合成で調製する際、15Nで標識されたアラニン、フェニルアラニン、グリシン、バリン、ロイシンの標識度を変え導入した。そして、得られた2つのセグメントはNCLを利用して連結し、PhoSL全長を合成した。そして、酸化的フォールディングによりジスルフィド結合を形成させた。得られたPhoSLは、質量分析、ジスルフィド結合位置を調べた。次にNMRを用いて、1H-TOCSY, NOESY, COSYと1H-15N HSQCを組み合わせ全てのアミノ酸の帰属とNOEの帰属をおこなった。そして得られた構造情報からCYANAによる3次元構造解析をおこなった。その結果、PhoSLは、βシートを主とする構造で2量体を形成していることを決定した。また、この構造はpHにより2-3量体と複合体様式を換えることを光散乱、ゲル濾過、native massの測定から確認した。また、等温滴定型カロリメトリーによるPhoSLとフコシルキトビオースとの結合定数を調べたところ2量体が400nMと最も強い結合親和力を示した。 以上のように安定同位体の濃度を可変しながら15N-アミノ酸を導入したペプチド固相合成をおこなうことで、タンパク質、糖タンパク質の構造解析、動的挙動解析が容易に実施できることを確認した。
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