2つの水分子を4電子酸化して酸素分子を与える光化学系IIの酸素発生中心(Mnクラスター)は、光合成における心臓部である。本研究では、これによく似たMnクラスターを合成するための超分子戦略を開発する。即ち、Mnクラスターに対して3つのカルボキシラート基を真横から配位させ、系統的な構造チューニングが可能な超分子配位システムを構築する。大環状型Znポルフィリン六量体-ビスピリジン配位子-Mnクラスターからなる超分子を合成しX-線結晶構造解析する。 前年度までに、6つのピリジン部位を有するテンプレート分子を用いたクロスカップリングを駆使して、ポルフィリン単量体から大環状ポルフィリン六量体を収率53%で合成することに成功した。本年度は、4つのピリジン部位を有するテンプレート分子を用いたクロスカップリング反応を試みたところ。大環状ポルフィリン四量体が収率14%で得られた。テンプレートを用いない場合は四量体が全く得られなかったことから、六量体の場合と同様の顕著なテンプレート効果を確認した。 DFT計算を行い、環状多量体の安定構造を調査した。六量体は、1H NMRスペクトルから対称的な六角柱構造が安定であると予想していた。しかし計算の結果、シクロヘキサン環がとるような椅子型および船型配座がそれぞれ最安定、準安定構造であるとわかった。完全な六角柱構造は椅子型構造と比較すると11 kcal/molも不安定であり、寄与が小さいことが示唆された。ただし、六量体は剛直な構造ではなく、ある程度柔軟に変化できる構造的自由度を持っていることが示された。一方、四量体は六量体に比べて径が小さく自由度が低いため、四角柱型が最安定構造であると計算された。 これらの環状ポルフィリン多量体からはテンプレート分子を取り外すことができるため、Mnクラスター形成のための超分子配位システムとして有望である。
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