様々な細胞内イベントにおいて、RNAの局在変化や分解を伴う例が知られている。このとき同じRNAでも細胞内の異なる場所で分解速度が同じとは限らない。このようなことを明確に観測するために、本研究では、蛍光相関分光法により細胞内の各所におけるRNAの分解について調べる方法の確立を目指した。その際、哺乳動物細胞の熱ストレス応答において起こると考えられているtRNAの局在変化や分解促進などを題材としてtRNA分解を観測した。 本年度は、短時間で蛍光標識RNAを細胞内導入する方法の検討を行うとともに、細胞内で分解前後に拡散係数がどのように変動するかを蛍光基を変えて調べた。結果として、完全分解した蛍光標識RNAは未分解の標識RNAと比べて拡散速度が遅くなっており、RNAに付加する蛍光基を変えても同様な現象が見られた。RNAの例としては、熱ストレス応答において核内蓄積・顆粒形成・分解促進などが起こると考えられているtRNA(iMet)を主な題材とし、蛍光標識tRNAの作製を行った。これをH1229細胞内に導入して、FCS測定を行ったところ、核内より細胞質内の方がやや拡散が速かった。熱ストレス応答に関しては、熱ストレスを与えてからFCS測定を行ってみたところ、ストレスに応じて、細胞質や核におけるtRNA分解が促進されているような結果が得られた。ただし、熱ストレスにマイクロインジェクションのストレスが重なってか、細胞の致死率が高く、測定値のばらつきも大きかった。この点についてはインジェクションしてから、熱ストレスを与えるまでの時間間隔など更なる検討が必要である。なお、tRNA(iMet)を検出するためには標識RNAを細胞内導入する以外にも、モレキュラービーコン等の手段の検討も行った。
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