研究実績の概要 |
テロメアはグアニン(G)リッチな塩基からなるDNA鎖であり、4つのGが水素結合することで4本鎖DNA構造(G4)を形成する。テロメアは細胞分裂に従い短縮され細胞死を迎えるが、癌のような不死化した細胞内ではテロメラーゼによりテロメア配列が伸長される。このG4構造にリガンドが強く結合した場合、テロメラーゼがテロメアDNAに作用できないので、その活性低下が起こることから、G4に特異結合するリガンドは抗癌剤として期待されている。しかし、既存のリガンドは、G4に強く結合するものの通常の2本鎖DNAにも結合するため副作用を引き起こすことが知られていた。 本研究では、2本鎖DNAへの結合を立体的に阻害可能な環状リガンドを設計し、G4構造特異的なリガンドの創成を目的とする。本リガンドは、抗癌剤の用途に止まらず、発癌メカニズムを解明するための分子プローブとして期待できる。本年度は、立体的にかさばりのあるcNDIとして、ベンゼン、t-Buthyl基を有するベンゼン、ピリジン、立体的に嵩張った金属錯体としてフェロセンなどを導入した新規cNDIとして、8種類の化合物を設計、合成した。さらに、4本鎖DNAとcNDIの結合挙動解析(UV-Visスペクトル、CDスペクトルによる確認)を行い、cNDIの性能評価を行った。4本鎖DNAへの選択性を調べるため、ヒトテロメア4本鎖DNA(ハイブリッド型、バスケット型), c-myc, c-kitを評価対象とした。2本鎖DNAに対する4本鎖DNAの選択性を調べるため2本鎖DNAに対する評価も行った。また、CDスペクトル、Topoisomerase Iアッセイによって結合の解明を行い、TRAPアッセイによるテロメラーゼ阻害能の評価を行った。 その結果、7種類の化合物のうち、t-Buthyl基を導入したcNDIが、4本鎖DNAへ強く結合するとともに、その特性が最も高いものであった。また、腫瘍細胞におけるIC50もサブuMレベル従来の抗がん剤に比べ高いものであった。
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