研究課題/領域番号 |
15K13749
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
井原 敏博 熊本大学, 自然科学研究科, 教授 (40253489)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | Ω型DNA / ターピリジン / アントラセン / 光二量化 / DNAコンジュゲート / 化学的DNA編集 / 化学的スプライシング |
研究実績の概要 |
DNAコンジュゲートの合成 非天然の構造をDNA骨格中に組込むためには、まずそれらの構造を基体とするアミダイト試薬を合成する必要がある。terpy2DNAの合成は既に成功しており、DNAzymeの活性制御に関する基礎的な検討を行っていたが、シークエンスを変更して追加合成を行った。 ant2DNAについてはアントラセンをアミダイト化して自動合成装置にて合成した。いずれのコンジュゲートに関しても導入するターピリジンやアントラセンをDNA部分と繋ぐリンカーの長さの異なるいくつかのものを合成した。常法にしたがって逆相HPLCで精製し、MALDI-TOF MSで同定した。 Ω型構造形成に関する検討 terpy2DNAについては、金属イオン添加前後、相補鎖との間で形成される2本鎖構造の熱安定性の向上をUV融解実験により確認することができた。このことは、terpy2DNAが金属イオンとの相互作用によりΩ型となり、それによって相補鎖との2本鎖形成が促進されたことを示唆している。これを金属イオンをトリガーとする鎖交換反応に利用できないか検討した。結果として金属イオンにより鎖交換反応を進行させることはできなかった。同じ長さ、塩基配列のステムを有する未修飾2本鎖DNAと比較すると、金属イオン存在下でさえもterpy2DNAとその相補鎖の2本鎖の熱安定性はかなり低いためにそもそも鎖交換が起こりにくく、さらにターピリジン部分で2本鎖構造の連続性が切れてしまうことが原因と考えられた。 ant2DNAについては、光照射によって分子内でアントラセンの光二量化反応が進行してΩ型構造をとることを確認することができた。二量化反応はアントラセンの外側に相補的な連続配列存在下で著しく加速され、リンカー長に依存した。ループ部分と相補的な配列を共存させると二量化はほぼ完全に阻害されることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金属イオンとの錯生成や、光二量化を利用したΩ型構造形成に伴うハイブリダイゼーション制御の可能性の如何は、コンジュゲート分子の構造設計に大きく依存すると考えていた。上記、研究実績に記した通り金属イオン共存下、terpy2DNAがΩ型構造を形成してもDNAの鎖交換反応を有意に加速することができなかった。このことは、DNAのハイブリダイゼーションは基本骨格上にレギュラーに配置された核酸塩基の協同的水素結合が多大に寄与している。すなわち2本鎖形成には構造の連続性が極めて重要であり、その意味で骨格中に組み込んだ[M(terpy)2]n+の構造は連続性を大きく損なう結果になったことを意味している。リンカー長の調整、[M(terpy)2]n+の両側のDNAの長さのバランスを考慮してΩ型構造形成により2本鎖が熱力学的により安定化できる構造を模索することができると考えている。 ant2DNAに関しては、現在までは予定通り実験がすすみリーズナブルな結果を得ている。すなわち、Ω型構造形成はアントラセンとDNAを結ぶリンカー長に影響を受け、光照射の際にant2DNAが1本鎖構造であったか、あるいは、アントラセンの外側、あるいはループ部分と相補鎖との2本鎖構造を形成していたかで反応をオンオフ制御することができる。この性質を利用すると当初計画していた光による遺伝子発現の制御への応用が可能になる。
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今後の研究の推進方策 |
機能性核酸の活性制御 一例としてペルオキシダーゼ活性を有するDNAzymeを使用し、その活性制御を検討する。まず、DNAzymeを2つに分割(スプリット)して不活性化する。金属イオン、あるいは光反応によるΩ型構造形成(スプライシング)によりはじめて有効なテンプレートが生じ、これにより活性なDNAzymeが再構成される。ant2DNAに関しては、申請者は、DNA末端に導入したantの光二量化反応(4π-4π)が高効率、可逆的に進行し、チミンの関与する2π-2π型の光架橋とは直交する選択性の高い反応であることを既に報告している。 核酸センサー 縮合反応によるΩ型構造形成は、二カ所の脱水縮合(シッフ塩基形成)により環化する必要があるが、この過程は可逆的であり、続く酸化(芳香族化)を経てはじめて反応が定着する。よって、aba2DNAがΩ型構造を形成するためにはそれを促進する鋳型が必要と考えている。この性質を利用すれば、aba2DNAは鋳型を標的としたセンシングに利用できる。Ω型構造の接合部で生成するピラジン誘導体由来の蛍光をモニターしてmiRNA、ctDNAを定量する。 遺伝子発現の制御 terpy2DNAおよびant2DNAは刺激に応答してDNAあるいはRNAと特異的に結合する。特にantの二量化は、申請者オリジナルの、いわゆるbioorthogonalで、しかも可逆的な反応である。スプライシング後にΩ型アンチセンス配列を与えるant2DNAを用いて、まず無細胞系で、次に細胞内で光によるGFP(緑色蛍光タンパク)の発現制御を試みる。また、逆反応によりRNAをリリースさせ、RNAi機構を発動させることにも挑戦する。さらに、o型DNA形成を利用して転写因子が結合する安定な二本鎖をin situで生成させ、これをデコイ核酸として転写制御に用いる。
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