前年度までの結果から、酸化鉄からなる多孔質粒子の合成に成功し水溶液中のヒ素(ヒ酸イオン)吸着特性に優れた吸着材として有望であることが確認されたが、一度吸着したヒ酸イオンの脱離回収においては、要求を満たすことができていなかった。脱離システムを加熱(脱離液を40℃程度に調整)で脱着回収量の改善が見られたので、酸化鉄の磁気特性を利用した外部からの交流磁場印加による脱離促進を図ったが、効果は十分ではなかった。その原因として、多孔質粒子内の空隙構造が、脱離液流通に適していなかった可能性が考えられた。そこで、多孔質酸化鉄粒子の空隙デザイン設計の一環として、超音波のアシストによる原料(リン酸鉄)非晶質粒子作製を試みた。 粒径1ミクロン程度の球形非晶質リン酸鉄粒子が得られ、水酸化ナトリウム塩基性水溶液への浸漬による溶解再析出処理によって中空多孔質酸化鉄粒子が得られた。単位重量あたりのヒ酸イオン吸着量は、従来の結晶性リン酸鉄粒子を原料とする多孔質酸化鉄粒子とほぼ同等であったが、脱着特性については十分に試験、評価するに至らなかった。原料粒子から多孔質酸化鉄粒子を得るための、塩基性処理液による溶解再析出プロセスにおいて、その処理条件は結晶質リン酸鉄原料を用いる場合のパラメータをそのまま適用した。そのため比較的溶解度の高い非晶質原料を処理するには、処理液の塩基性が強すぎた可能性が考えられる。従って、非晶質原料から多孔質酸化鉄粒子を得るための処理条件最適化を目指した検討を系統的に実施する必要がある。しかし、超音波アシスト非晶質リン酸鉄粒子の作製に成功したのは本年度後半であり、本研究期間中に十分な検討をすることができなかった。今後、本研究で得られた知見をもとにさらなる研究開発を推進していく所存である。
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