研究課題/領域番号 |
15K13765
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
酒井 剛 宮崎大学, 工学部, 教授 (40284567)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 電極触媒 / 酸素還元活性 / 酸化物担体 / 水熱処理 / 溶媒熱処理 |
研究実績の概要 |
TiCl3(3価のチタン)とSnCl2(2価のスズ)から合成したTiO2-SnO2複合酸化物が焼成過程では結晶成長せずに水熱処理によって結晶成長する特異的な現象を見出し、平成27年度に成果を公表している。平成28年度は、その実績を踏まえ、当初の予定に挙げていた低価数の元素を含む(還元状態を保った)金属酸化物を合成する手法を開発するために、水熱処理条件下での結晶成長が有機溶媒中で進行するかについて検討を行った。有機溶媒を用いれば、TiO2-SnO2複合酸化物の表面に3価のチタンを生じさせうるとともに、白金の還元担持がより効率的にできる可能性があるためである。その結果、まず、有機溶媒と水との混合溶媒中での溶媒熱処理でもTiO2-SnO2複合酸化物の特異的結晶成長が確認され、有機溶媒のみを用いた場合でも結晶成長が認められた。ただし、TiO2-SnO2前駆体から水分を除去すると、溶媒熱処理では特異的結晶成長が進行しないことを新たに見出し、特異的結晶成長が、前駆体に含まれる微量の水分によることをほぼ特定できた。さらに、この水分は酸化チタンの近傍あるいはチタン原子近傍に残存している結晶水であることが、赤外線(IR)分析より示唆され、表面チタンと水分を共存させて溶媒熱処理すれば、酸化物担体表面に効率よく白金を担持できる新たな試料合成法を開発した。以上のように、TiO2-SnO2前駆体の水熱条件下での特異的結晶成長が、結晶内部に残存する水分に起因するという仮説を立て、その仮説を実証したことから、平成28年度の目標は達成できた。また、得られた試料の酸素還元比活性がこれまでの市販触媒に比べて高いことが明らかになったことから、白金粒子の分散性を高めることによって比表面積値を大きくできれば、最終的な目標であるメカニズムの解明と新規合成法の確立に到達できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TiO2-SnO2前駆体の水熱条件下での特異的結晶成長が、有機溶媒のみを用いた場合でも認められ、TiO2-SnO2前駆体から水分を除去すると、溶媒熱処理では特異的結晶成長が進行しないことを明らかにし、特異的結晶成長が、前駆体に含まれる微量の水分によることをほぼ特定できたこと、さらに、この水分は酸化チタンの近傍あるいはチタン原子近傍に残存している結晶水であることが、赤外線(IR)分析より示唆されたことから、TiO2-SnO2前駆体の水熱条件下での特異的結晶成長が、結晶内部に残存する水に起因するという仮説を立て、その仮説を実証したことを踏まえるとおおむね順調に進展している。また、表面チタンと水分を共存させて溶媒熱処理すれば、酸化物担体表面に効率よく白金を担持できる新たな試料合成法を開発できている。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、平成28年度までの、TiO2-SnO2前駆体の水熱条件下での特異的結晶成長現象とそのメカニズムの解明、および、溶媒熱処理条件での白金の担持方法の開発、さらに、得られた白金担持酸化物触媒が燃料電池条件下での作動で高い酸素還元活性を有することを明らかにしてきた実績を踏まえ、白金粒子の分散性を高めることによって比表面積値を大きくすることや、他の遷移金属と白金との複合化によって白金使用量の低減を図るとともに高活性化を達成できる組み合わせを探索するなどの検討が必要である。これまで、Ptとチタン酸化物を組み合わせた触媒(Pt-Ti/C)は市販試料Pt/C(TEC10E50E)に比べてはるかに高い酸素還元活性を有するPt粒子であることを明らかしており、この高酸素還元活性の向上は、触媒の酸化還元反応時に生成した低価数チタンから隣接するPt粒子への電子移動により、Ptの酸素還元反応時に酸素の脱離が容易になったことに起因すると考えられる。また、チタン-スズ複合酸化物を担体に用いることで、Pt/Cに比べて高い酸素還元活性を示すPt粒子が得られ、高耐久性を有することを28年度末に明らかにしており、より実用化に近い触媒系として有望と考えている。これまで、担体として酸化物のみを用いた固体高分子形燃料電池用電極触媒の報告例はほとんどないため、得られた触媒は次世代カーボンフリー電極触媒として期待でき、活性支配電流を向上できれば実用化できると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
TiO2-SnO2の特異的な結晶成長挙動についてそのメカニズムを調べるために、各種分析を予定していた。最も広範で安価な分析方法から検討を行った結果、赤外吸収(IR)で予想以上にはっきりとした分析結果が得られたため、機器分析に形状予定であった予算を原材料等の消耗品に費やし、次年度の予算としてより高度な分析を集中して行うこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
TiO2-SnO2の特異的な結晶成長挙動についてそのメカニズムを確立するために、材料合成用の原材料費とともに、電子スピン共鳴法(ESR)、X線光電子分光法(XPS)およびラマンスペクトル分析法等の機器分析を行うために使用する。
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