研究課題/領域番号 |
15K13768
|
研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
横山 大輔 山形大学, 大学院有機材料システム研究科, 准教授 (00518821)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | ハイブリッド / 屈折率 / 導電性 / 透明性 / 蒸着膜 / エレクトレット / 電荷移動 / ブラッグミラー |
研究実績の概要 |
本研究では、無機材料と有機材料を併用し、真空蒸着成膜可能・高導電性・高透明性・高平滑性といった条件を全て満たす高・低屈折率薄膜を実現することを目指している。さらに、その薄膜を用いて格子整合条件フリーな導電性ブラッグミラーを作製し、垂直共振器型有機半導体面発光レーザ構造の構築に向けて利用することを視野に入れている。 前年度(H27年度)の研究成果のさらなる発展を目指し、H28年度は当初の研究目標(導電率>10e-5 S/cm、高屈折率>2.0、低屈折率<1.5)を目指しつつ、それに近い特性を有する膜として暫定的に具体的な材料選択を行い、その基礎物性評価と導電性ブラッグミラーの試作を行った。高屈折率層としては、導電率10e-6 S/cm、屈折率2.09の三酸化モリブデン蒸着膜を選択した(導電性が目標値より低い点以外は、他の条件を全て満たす)。また、新規に材料探索を進め、有機半導体材料、低屈折率有機絶縁性材料(エレクトレット性を持ちうる有機材料)、有機ドーパントの3材料混合系薄膜を見出し、導電率10e-7 S/cm、屈折率1.56の可視域完全透明な低屈折率導電膜の実現を達成した。FTIR測定系を用いた赤外吸収測定により、この膜内の有機半導体/有機ドーパント間で電荷移動が顕著に起こっていることが示され、そこで生じた自由電荷が高い導電性に寄与していると考えられる。 さらに、これらの高・低屈折率層を用いて繰り返し構造6回を有するブラッグミラーを作製し、オーミックな電気伝導特性を示す反射率94%の導電性ブラッグミラーを実証することに成功した。しかし、ガラス基板上に作製すると積層数を増すにつれデバイスにクラックが入ってしまう点、および面発光レーザ構造の構築に向けて導電率をさらに1~2桁向上させる必要がある点が大きな課題となっており、これらの克服に向け次年度も引き続き研究を進めていく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に記したとおり、研究はおおむね順調に実施されている。前年度は低屈折率層の導電性の低さが大きな問題点として残されていたが、材料系として新たに上述の3材料混合系を見出したことで低屈折率層の導電性を飛躍的に向上させることに成功した。その物性値(導電率10e-7 S/cm、屈折率1.56)は現在のところ当初の目標値を下回るが、ガラスと同等の低い屈折率を有する可視域完全透明な導電性薄膜はこれまで過去に報告例がなく、特筆すべき結果であると考える。さらに、これを高屈折率層と組み合わせ、オーミックな電気伝導特性を示す反射率94%の導電性ブラッグミラーを実証できている。本研究で見出された低屈折率導電膜は、現在直接検討・試作を行っているブラッグミラー以外にも、様々な光エレクトロニクスデバイス(例えば、有機EL、有機薄膜太陽電池等)の効率向上等に向けて広く応用可能であると期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
残された大きな課題は、導電性のさらなる向上と、積層数増大の際のクラック発生の防止である。また、導電性を向上させるためには、本研究で新たに見出した3材料混合膜での導電機構の解明を行い、この材料系の基礎を構築することが重要となる。 3材料混合膜に用いる低屈折率有機絶縁性材料は、導電性を損なうことなく効果的に屈折率を低減させることができるが、その導電性保持の機構は未だ明らかとなっていないため詳細を解明する必要がある。3材料からなる低屈折率膜の導電率は現在のところ当初の目標値より2桁程度低いが、上記機構をふまえた上で適切な材料探索を行えばさらなる導電性の向上をねらうことができると考える。また、クラックの発生は高・低屈折率層間の物性差が大きいことによるものと予想されるため、熱膨張率・弾性率等にも注目して物性間差が小さくなるような材料構成を探索していく。
|