有機半導体レーザの実現のためにはレーザ発振に必要な励起子密度の低閾値化が求められ、その手法の1つとして垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL)構造の構築が挙げられる。通常の無機半導体VCSELでは、CVDエピタキシャル結晶成長でデバイス内部に高・低屈折率無機半導体多層膜ミラーを構成することによりその構造を実現しているが、高温プロセスでかつ膜成長時に下層との格子整合条件を満たさねばならないという制約条件があるため、有機半導体を用いたVCSELのための多層膜ミラーの構築は従来技術では困難であった。本研究では、下層に対する制約のない非晶質有機半導体材料の抵抗加熱蒸着膜を主に用い、低屈折率有機材料の混合による低屈折率有機半導体膜を開発することで位相整合条件フリーな多層膜ミラーを実現した。低屈折率混合材料としては、低屈折率化と導電性維持の両立を可能とする低屈折率エレクトレット材料を用い、それを含めた3材料(有機半導材料、導電性向上のためのドーパント、低屈折率エレクトレット材料)の抵抗加熱共蒸着によって低屈折率導電性有機半導体薄膜を新規に開発した。さらに、それを高屈折率導電性半導体層と組み合わせて多層膜ミラーの構造を構築し、緑光に対する反射率>96%、平均導電率2.4e-8 S/cmの導電性多層反射率ミラーを実現した。導電性は従来の非晶質有機半導体薄膜と遜色ないレベルであり、そのような導電性非晶質蒸着膜により96%を越えるような高反射率を達成した例は過去に見られない。CVDプロセスに比べ低温で作製でき、下層の制約もない非晶質蒸着膜によって光と電子を高いレベルで同時制御できることを示しており、有機半導体レーザの実現に向けた応用展開のみならず、他の有機・無機半導体デバイスにおける活用も見込むことができる重要な成果であると考える。
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