研究実績の概要 |
金属有機構造体(MOF)は、架橋有機配位子と金属イオンから形成される多孔性物質であり、ガス吸着(分離)や触媒反応などへの応用から非常に注目を集めている。本研究では、MOFの酸化還元特性や空孔への電解質イオンの挿入と脱離が可能な点に着目し、電池材料への応用研究を行ってきた。 H28年度は、酸化還元活性な有機配位子である4,4'-ジピリジルジスルフィド(4dpds)とCuイオンからなる2次元構造の[Cu(oxalate)(4dpds)](S-MOF)を合成し、これを正極活物質とするリチウム電池の充放電測定を行った。その結果、S-MOF電池では4dpdsとCuイオン両方の酸化還元に基づく理論容量とほぼ同じ値が安定に観測され、4dpds電池よりも良い電池特性を示すことが分かった。ここでは、正極のS K端XAFS測定により、電池反応におけるMOF中のジスルフィド(S-S)結合の状態変化の解明を試みた。その結果、充放電によりMOF配位子中のジスルフィド結合は可逆な開裂/結合と2電子の酸化還元を示すことが分かった。このことより、MOFの強固な骨格にジスルフィド配位子を組み込むことで、電気化学反応におけるS-S結合の可逆な開裂と再結合が可能となり、安定なサイクル特性を有する二次電池が実現できた。 また、MOFにポリオキソメタレート(POM)を組み込んだPOMOFを用いた高性能な二次電池の開発にも取り組んだ。ここでは、POMの一つであるKeggin型のシリコモリブデン酸をCuイオンとピラジンやビピリジンから成るMOFと組み合わせたPOMOFを作製し、これらを正極活物質とするリチウム電池の充放電特性を検討した。POMOF電池の1サイクル目の放電容量は、シリコモリブデン酸そのものよりも大きく、POMOFにすることで、電解液への溶出などを抑えることができたといえる。
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