研究実績の概要 |
本年度は、開発したpH応答性色素の詳細な物性評価を行うと共に、生体内外でのpH応答を評価した。 ベンゾインドール環の窒素原子上に求核性置換基である3-アミノプロピル基、3-ヒドロキシプロピル基および3-メルカプトプロピル基を有する近赤外シアニン色素を開発した。これらの色素はおのおの、pH 7-9, 5-8, 3-6で開環状態の発光性色素と閉環状態の非発光性色素の平衡状態になる。色素を含む緩衝液を酸性と塩基性に交互に変化させても、いずれの色素も吸光度や発光強度は大きな減衰を示さなかった。このように本年度計画通りpH応答性色素の詳細な物性を明らかにした。 pH応答性色素をHeLa細胞に37℃で播種したところ、時間経過と共に発光量が増大した。エンドサイトーシスにより色素が取り込まれ細胞内の低pH環境を認識することを明らかにした。なお、ヒドロキシ基を有する色素は中性条件でも一部正電荷を持つ開環構造を取るため、この構造を有する色素が細胞表面のリン脂質に由来する負電荷と相互作用し吸着することも見出した。このように本課題では、開発した色素が細胞存在下においてもpH応答性を示すだけでなく、電荷が挙動制御に影響を与えることを見出した。 ポリエチレングリコールを結合させたpH応答性色素を担がんマウス(HeLa細胞)に投与したところ、腫瘍集積性を示し、光イメージングにおいて腫瘍の可視化に成功した。このことは計画通り光腫瘍造影剤を開発できたことを示す。指標となる色素を結合させ、生体内でのpH応答性を確認することが重要である。 本萌芽研究では、申請当初目標に掲げたpH応答性色素の開発とそれを造影分子として有する光腫瘍造影剤の開発に成功した。実用的な造影剤開発に、このシーズを活かすことが今後の課題である。 なお、本成果は2016年度特許公開され(特開2016-160194)、現在論文投稿中である。
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