研究課題/領域番号 |
15K13773
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
柳 久雄 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 教授 (00220179)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ポラリトンレーザー / 有機結晶 / 励起子ポラリトン / 有機レーザー |
研究実績の概要 |
強発光性π共役オリゴマーである(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー(TPCO)の低次元結晶を光ポンプしたときに観測される時間遅れを伴ったパルス型遅延発光の起源として、半導体量子井戸を分布ブラッグ反射(DBR)ミラーで挟んだマイクロキャビティにおいて極低温で観測される励起子ポラリトンとの類似性が示唆されており、低励起閾値で発振するポラリトンレージングへの展開が期待されている。そこで本研究では、TPCO誘導体結晶を用いてマイクロキャビティを作製し、時間分解および角度分解発光測定を行うことにより励起子ポラリトンの関与していると思われる以下の成果を得た。 1 TPCO結晶キャビティの作製 2,5-bis(4-biphenylyl)thiophene (BP1T)の分子両末端をシアノ基で置換したBP1T-CNをDBRミラー上に波長スケールの厚さ(0.2-1 μmm)で真空蒸着し、得られた膜を圧着溶融することにより、厚さの異なるBP1T-CN結晶を活性層とするマイクロキャビティを作製した。分子が直立配向するBP1T 結晶とは異なり、BP1T-CN結晶中では分子軸が寝た配向を取った三斜晶を形成し、面発光型マイクロキャビティの作製に有利であることを見出した。 2 励起子ポラリトンの実証 1で作製したBP1T-CN結晶を用いた面発光型DBRキャビティを用いて、発光スペクトルの角度依存性を測定した結果、エネルギー角度分散曲線に分裂が生じることを見出した。得られた分散曲線を、キャビティフォトンのエネルギー、励起子のエネルギー、光子-励起子結合エネルギーを各パラメータとした現象論的ハミルトニアンを用いてフィッティングした結果、励起子とs-およびp-偏光したキャビティフォトンが結合したキャビティポラリトンが生成していることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、TPCO結晶を用いたマイクロキャビティの時間分解および角度分解発光測定により、これまでにTPCO低次元結晶において観測されているパルス型遅延発光の起源として励起子ポラリトンの生成が関与していることを実証し、新たな有機ポラリトンレーザーへ応用に展開することである。今年度の実施計画に上げた(1) TPCO結晶キャビティの作製については、これまで多く研究されてきた無置換のTPCO結晶中では分子軸が直立配向を取るためエッジ発光しか得られなかったが、本研究ではシアノ置換したBP1T-CNを用いることにより平行配向を実現し、DBRを用いたマイクロキャビティに必要な高効率の面発光が得られたことから、以下の発光測定を可能にし研究の進捗に大きく貢献した。 まず、溶融圧着法によりBP1T-CN結晶を2枚のDBRで挟んだマイクロキャビティを用いて光ポンプ発光測定を行い、この試料が面発光レーザーとして機能することが確かめられた。次に、実施計画の(2)に掲げた励起子ポラリトンの実証を行うため、片面のみにDBRを配したマイクロキャビティを用いて角度分解および時間分解発光測定を行った。その結果、発光スペクトルの角度分散において、曲率の異なる2組の分散曲線の間に反交差分裂が現れたことから励起子ポラリトンの生成が示唆された。この分散特性を解釈するため、2つのダビドフ分裂した励起子と4つのキャビティフォトンモードを含めた現象論的6x6ハミルトニアンを用いてフィッティングを行った結果、反交差分裂を再現でき最大で160 meVのラビ分裂エネルギーが得られた。また、時間分解発光測定においても、半導体マイクロキャビティ中での励起子ポラリトンの生成過程で生じることが確かめられている時間遅れが観測された。以上のことから、目的とした励起子ポラリトンの生成が実証され、研究は計画通りに進捗していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究により、シアノ置換したBP1T-CNが結晶中で平行配向を取ることによりDBRミラーを用いたマイクロキャビティに適した面発光が得られ、励起子ポラリトンの生成が可能であることが明らかになった。そこで次年度は、BP1T-CNの骨格であるBP1T分子とは構造対称性の異なるBP2Tの両末端にシアノ基を置換したBP2T-CNを用いて同様の実験を行う。BP1T-CNが青色の発光を示すのに対して、BP2T-CNはチオフェン環が一つ増えたことによりπ共役長が伸びるため緑色の発光を示す。まず、BP2T-CN蒸着膜を圧着溶融成長させた結晶を作製し、BP2T-CNがBP1T-CNと同様の平行配向を取るかどうかを調べる。BP1T-CNが平行配向を取るのは分子間のシアノ基同志の相互作用に起因していることがわかっているので、BP2T-CN結晶においても平行配向を取る可能性が高いと考えられる。BP2T-CN結晶を用いた面発光型マイクロキャビティにおいても励起子ポラリトンの生成が得られれば、有機ポラリトンレーザーに向けた応用の幅が広がる。将来的に電流励起によるレージングを目指すにはp/n接合型の有機電界発光素子(OLED)を作製する必要があるが、BP1T-CNやBP2T-CNはシアノ基の強い電子吸引性によりHOMO/LUMOエネルギーが低下するためn型の半導体性をもつ。BP2T-CNはBP1T-CNに比べてHOMO準位が高くLUMO準位が低いため注入されたキャリアがよりBP2T-CN層に閉じ込められやすく、電界発光に有利であると考えられる。そこで、まずBP2T-CN蒸着膜とその無置換体でp型特性をもつBP2T蒸着膜をDBR/ITO電極基板上に積層したマイクロキャビティ構造をもつOLEDを作製し、その角度分解発光スペクトルを測定して、電流励起下でのポラリトンレーザーの可能性を探る。
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