研究課題/領域番号 |
15K13774
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
早瀬 修二 九州工業大学, 生命体工学研究科(研究院), 教授 (80336099)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 太陽電池 / 光電変換 / ペロブスカイト / 水晶振動子 / 界面 / チタニア / 高効率 / 吸着 |
研究実績の概要 |
ペロブスカイト層はPbI2層(DMSO溶液)を作製した後、アルコール溶液中でメチルアンモニウムアイオダイド(MAI)をPbI2層に導入することによって形成される。水晶振動子センサー上にPbI2を形成しその上にMAIのアルコール溶液を導入したところ、センサー上のPbI2層の重量が増加するはずであるが、時間とともに若干減少することがわかった。PbI2は2分子のDMSOと錯体を作っていると報告されているが、2分子のDMSO(156.4)がMAI(159.0)と入れ替わっても若干の重量増大が観測されるはずである。PbI2はMAIのアルコール溶液によって若干溶解されながらMAIを取り込んでいくものと説明できた。次年度はペロブスカイト層に対して溶解性のさらに低いMAI溶液を用いてMAIのPbI2膜中拡散速度を検討する。一方、チタニアとペロブスカイト層界面の構造も高効率化に重要である。ペロブスカイト層はMAIとPbCl2の混合溶液(1)を塗布することによっても得られ、Clイオンが存在すると効率向上が起こることがすでに報告されている。チタニア薄膜を形成した水晶振動子センサー上に上記(1)を導入したところ、チタニア層上に(1)が吸着し重量が増大した。その吸着量はClイオンが存在しない場合に比較し非常に多かった。上記センサーをペロブスカイト可溶性溶剤で洗浄しても吸着重量は減少しなかった。 XPSでの表面分析結果、および各成分の吸着速度を詳細に検討し、混合液(1)中ではMAIがまずチタニア表面と反応しTi-O-MAを形成し、その後にPbCl2が挿入されTi-O-Pb-MA-Clの界面構造を作っているものと推測した。これまでClイオンの高効率化に与える影響として結晶粒が大きくなることが上げられていたが、加えてTi-O-Pb結合でチタニア層とペロブスカイト層が結合しペロブスカイト層からチタニア層への電子移動が有効に起こっているという説明が可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでペロブスカイト太陽電池の高効率化に対する塩素イオンの効果が十分説明されていなかったが、本研究を推進中に、塩素イオンは電荷移動界面であるチタニアとペロブスカイト界面に存在し、チタニア層とペロブスカイト層を化学結合で連結し、その電荷移動を助けているという推論を提案した。今後高効率化への界面構築という意味で重要な知見である。
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今後の研究の推進方策 |
当初、PbI2層へのMAI拡散速度を測定することを計画していた。太陽電池作製プロセスではPbI2はMAI溶液によって溶解しないと考えられていたが、微少重量を測定する本研究条件ではPbI2のMAI溶液への若干の溶解が、MAIの拡散速度測定に大きな影響を及ぼしていることがわかった。次年度には、実際にプロセスで用いる溶剤ではないが、PbI2の溶解を抑制できる溶剤を選択し拡散速度測定を試みる。一方、ペロブスカイト太陽電池の高効率化に対する塩素イオンの効果について新しい推論を提案できたため、次年度は水晶振動子を用いて解析したチタニアーペロブスカイト界面構造と太陽電池性能の関係をさらに詳細に検討し、高効率化への指針を提案したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
PbI2層にMAIを浸透させペロブスカイト層を作製する際に、太陽電池を作製するプロセスと同じプロセスを使用した場合、PbI2層が若干MAI溶液に溶解したため、正確にPbI2と反応するMAIの量を同定できないことがわかった。この途中で見出した太陽電池高効率化に関する塩素効果について有用な情報を得てこの研究を継続した。このように前年度に研究内容を変更したため、使用研究費に変更が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今期は前期に提案した研究を溶剤を代えて行うこと、および前期に見出した塩素イオンが高効率化に及ぼす研究の継続を同時に行い、このための材料費、およびこれらの学会発表にとして使用する。
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