研究課題/領域番号 |
15K13775
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
瀧宮 和男 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, グループディレィター (40263735)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 自己組織化単分子膜 / 双極子モーメント / 界面電荷 / 両極性有機半導体 / 相補型インバータ |
研究実績の概要 |
有機半導体を用いる電子デバイスの多くは、有機半導体-酸化物の界面を持つ。この界面を自己組織化単分子膜(SAM)で修飾し、SAMが誘起する界面双極子により、デバイスにおける有機半導体中のキャリアを制御することが本研究の目的である。この目的のため、大きな双極子を誘起できるSAMを探索するだけでなく、双極子の方向を自在に制御できるSAM材料と酸化物の組み合わせ、さらにはこの手法を活かせるデバイスへの応用を見出すことを目指す。 研究初年度の平成27年度は、両極性有機半導体の単極性化、及び、これと基板の選択的SAM修飾を組み合わせることで、単一の両極性材料から成る高性能相補型インバータを実現することを目標に研究に着手した。p型への単極化はフッ素化されたアルキル基を有するSAMにおいて再現性良く実現できることを確認するとともに、n型化の可能なSAM探索するため様々な置換基を有するSAM分子で特性変化を検討した。その結果、アミノ基、特にジメチルアミノ基を持つSAM分子で、n型への選択的単極化が実現できることを見出した。さらに、従来のフッ素化アルキル基のSAMとジメチルアミノ基を持つSAMを基板上に塗り分けることで“モノリシックな”両極性半導体薄膜と二つのトランジスタ用の電極をパターンニングすることで理想的なインバータを実現することが可能であることを実証できた。 これらに加えて、SAM分子が誘起する両極性半導体の単極化の起源を理解する目的で、SAMで修飾された基板の評価を種々の方法で行った。その結果、ケルビンプローブ法による評価で顕著な表面ポテンシャルの変化がみられることを見出した。これにより、SAMが誘起する単極化の起源について考察が可能となった。現在、これらの成果をまとめて論文発表する準備を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は当初の計画通り、両極性有機半導体を単極化できるSAM分子の探索を行い、p型への単極化SAMのフッ素化デシルトリクロロシラン(FDTS)に加えて、ジメチルアミノプロピルトリエトキシシラン(MAPS)がn型単極化SAMとして、望み通りの特性を発現することを見出した。 また、単なる材料探索にとどまらず、これら明確な単極化を実現したSAMで修飾した基板の表面電位をケルビンプローブ法で評価したところ、FDTSでは負の、MAPSでは正の表面電荷が観測され、これが有機半導体層中に逆の電荷を誘起することが強く示唆された。即ち、両極性有機半導体中に誘起された電荷は、電子、またはホールのトラップとして寄与できるため、これがSAMによる単極化の起源であると考えるのが合理的であることが示された。この結果は、トランジスタによる特性評価によらず、ケルビンプローブによる表面電荷の直接評価でSAM材料の探索に明確に指針を与えることが出来ることに相当する。 これらに加えて、上記二種のSAMの塗り分けを予備的に検討した。単純なマスク法により、p、nそれぞれの領域を形成したのち、両極性有機半導体をスピンコート、さらにインバータ用にパターンした電極を蒸着することで、一枚の基板上に単一の有機半導体材料から理想的なインバータ特性をもつデバイスを作製することに成功した。これは28年度の計画を前倒して達成したものであるだけでなく、本手法が実用的にも高いポテンシャルを持つことを示すものである。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度インバータに関して予定以上の進捗が見られたうえに、得られた特性が極めて優れていたことから、まずこの成果を論文発表するべくデータをまとめる。 また、本手法の更なる有用性と一般性を検討する目的で、基板をシリコン・酸化シリコンからアルミナに変更し、低電圧駆動のインバータの作製を検討する。このため、アルミナゲート絶縁体の形成、ホスホン酸SAMの選択等を実施し、実際に低電圧駆動デバイスを作製し評価する。 一方、太陽電池への応用を検討するために、まずカソードのZnO用のSAM分子を合成、SAM形成を行う。実際に太陽電池への応用を行う前に、昨年度見出したケルビンプローブ法による表面電位の測定によるSAMにより誘起される双極子モーメントが当初の想定通りか検証したうえで、太陽電池セルの測定へと展開する。
|