研究課題/領域番号 |
15K13778
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩田 忠久 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (30281661)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | パラミロン / カードラン / エステル誘導体 / ユーグレナ / バイオベースプラスチック / 多糖類 / 熱可塑性 / 繊維 |
研究実績の概要 |
本研究では、プラスチック生産における石油依存および可食系原料の利用から脱却し、真の持続的な物質循環型社会を構築するために、二酸化炭素と水からミドリムシにより生合成される多糖類の一種であるパラミロン(β1,3-グルカン)と微生物が生合成する同じ化学構造を有するカードランを用いて、グルコース単位当たり3つ存在する水酸基をエステル基で化学修飾することにより熱可塑性を付与し、溶融紡糸法により高強度繊維を作製することを目的とする。さらに、大型放射光を用いて、パラミロンおよびカードランエステル誘導体の分子鎖構造および結晶構造を解析すると共に、物性と構造の相関を解明し、より高強度な繊維を開発することを目的としている。 本年度は、パラミロンとカードランを2種類の方法でエステル化した。一つは、トリフルオロ無水酢酸(TFAA)とカルボン酸を用いた不均一反応によるエステル化であり、他方は、ジメチルアセトアミド(DMAc)と塩化リチウム(LiCl)にパラミロンあるいはカードランを完全に溶解させた後、無水カルボン酸とピリジンなどの触媒を用いてエステル化を行う方法である。いずれの方法により、アセチル基からラウリル基まで8種類のエステル基を導入することに成功した。 合成した8種類のパラミロンエステルおよびカードランエステルについて、熱的性質および機械的性質について測定を行った。熱的性質は、パラミロンエステルとカードランエステルはほとんど同じであり、アセテート誘導体からヘキサノエート誘導体までは結晶性であり、それ以降は非晶性であることが分かった。破壊強度は、分子量の大きかったカードランエステル誘導体の方が大きかった。したがって、カードランエステル誘導体を用いて溶融紡糸繊維の作製を行った。カードランプロピオネートから非常にきれいな溶融紡糸繊維を作製することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
β-1,3結合を有する多糖類であるパラミロンおよびカードランからそれぞれ8種類のエステル誘導体を合成することに成功するとともに、その熱的性質および機械的性質を測定することができた。さらに、一部のエステル誘導体から溶融紡糸繊維を作製することができ、非常に多くの結果を得た。これらの結果については、現在学術論文を執筆中である。 さらに、アセテート誘導体からヘキサノエート誘導体までは結晶性、それ以降は非晶性と、置換基により結晶性と非晶性を制御できることも見出した。また、アセテート誘導体は6回らせんの分子鎖構造をとるのに対し、プロピオネートからヘキサノエート誘導体は5回らせん構造をとることも分かった。現在、これらの分子鎖構造について構造解析を遂行中である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)エステル置換度の制御による高性能化:均一反応の反応時間をコントロールすることにより、置換度の異なるエステル誘導体を合成する。合成した様々な置換度を有するエステル誘導体の熱的性質、成型加工性を解析すると共に、酵素を用いた酵素加水分解性についても検討を行い、生分解性を有しながら熱成型加工も可能な置換度を決定する。 (2)高強度・高性能繊維の開発:溶融紡糸条件、超延伸条件、熱処理条件などを最適化し、目的とする高強度繊維の作製に向け、実験を遂行する。さらに、生分解性を有する置換度に制御されたエステル誘導体を用いて繊維を作製し、生分解性を有する高性能な繊維の作製を行う。 (3)構造と物性の相関解明と新規成形加工法の提案:高強度・高性能繊維の分子鎖構造、結晶構造および高次構造などを詳細に解析し、高物性を発現する構造の推定とその構造を発現させる成形加工法を提案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予想以上に、パラミロンおよびカードランのエステル誘導体化がうまくできたため、有機試薬および有機溶媒の使用量が予定以上に少なかった。また、多くの国際会議に招待されたため、参加登録料が不要となり、その分差額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
予定通りの研究を遂行するとともに、積極的に国際会議に出席して研究発表を行う予定である。さらに、溶融紡糸繊維を作製するために、外注により大量のポリマー生産を行いたいと考えている。
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