研究実績の概要 |
本研究では、プラスチック生産における石油依存および可食系原料の利用から脱却し、真の持続的な物質循環型社会を構築するために、二酸化炭素と水からミドリムシにより生合成される多糖類の一種であるパラミロン(β-1,3-グルカン)を用いて、グルコース単位当たり3つ存在する水酸基をエステル基で化学修飾することにより熱可塑性を付与し、溶融紡糸法により高強度繊維を作製することを目的とした。さらに、大型放射光を用いて、パラミロンエステル誘導体の分子鎖構造および結晶構造を解析すると共に、物性と構造の相関を解明し、より高強度な繊維を開発することを目的とした。 8種類の長さの異なるエステル基で置換されたパラミロンエステル誘導体の合成に成功した。熱分解温度は、パラミロンの熱分解温度である280度から330度へと上昇し、熱安定性の向上に成功した。短鎖のエステル誘導体は融点が観測できたことから結晶性であり、長鎖の誘導体は融点が観測されなかったことから非晶性であることから、エステル基の長さにより結晶性と非晶性を制御できることが分かった。一方、フィルムの物性については、短鎖の場合は高強度で、長鎖の場合は破壊伸びに優れた性質を示した。短鎖エステル誘導体から溶融紡糸繊維の作製に成功するとともに、X線回折測定の結果、パラミロンエステル誘導体は分子鎖軸方向に5回らせんの対称性を有する、非常に珍しい分子鎖構造をとることが分かった。さらに、射出成型にも成功し、実部材に近いダンベル片の作製にも成功した。
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