研究課題/領域番号 |
15K13779
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 亮 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80256495)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 高分子ゲル / 酵素反応 |
研究実績の概要 |
本研究では、温度応答性高分子(poly(N-isopropylacrylamide), PNIPAAm)からなる温度応答性ゲル内に酵素反応を組み込むことにより単一材料内に負のフィードバック機能を持たせた新規自励振動ゲルの設計を目指す。中性条件下で機能発現が可能となる点において従来の自励振動ゲルより優れていると考える。具体的な設計としては、まず発熱反応を触媒する酵素を内包するPNIPAAmゲルを作製する。このゲルを一定温度に保った基質存在下に置くと酵素反応による発熱により昇温しゲルが収縮する。それに伴いゲル内部の基質存在量が低下することで酵素反応が停止する。その後、熱散逸による温度低下で再び膨潤し、酵素反応が再開する。酵素反応を停止させる手法として、ゲルの表面近傍の架橋構造のみにPNIPAAmグラフト鎖を導入することで密なスキン層形成による物質透過性の低下を検討したが、酵素反応を完全に停止させることはできなかった。そこで、ゲル内部からの積極的な基質溶液の放出を目的としてスキン層が形成されない小さいサイズのゲルを作製した。また、酵素を化学架橋によりゲルの網目構造内に固定することを試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ARGET ATRPを用いることで表面近傍の架橋構造のみにPNIPAAmを修飾し、カタラーゼ内包表面グラフト型ゲルを合成した。表面グラフト処理により密なスキン層形成は示唆されたが、密なスキン層が形成されたとしても基質のゲル内部への侵入を完全に防ぐことはできず酵素反応が停止しないと考える。よって収縮挙動のみが観察され、振動現象は生起しなかったと推測される。 酵素を物理的にゲルの網目構造内に固定するだけでは透析により酵素が抜けてしまうことが示唆されたため、化学架橋により酵素を固定した小さいサイズの酵素固定ゲルを合成した。またカタラーゼでは気泡の発生が観察の妨げとなることや失活が考えられるため、グルコースオキシダーゼでも同様のゲルを合成し、活性測定や平衡膨潤度測定を行った。カタラーゼ固定ゲルでは昇温時に、ゲルの網目の脱水和・収縮による基質溶液の放出または酵素周りの立体障害の増加により活性が低下することが確認された。GOD固定ゲルでは活性が大きく低下し、酵素反応による温度上昇は見込めないことが示唆された。 酵素周りの立体障害の増加により酵素活性が大きく低下することが確認された。よって昇温に伴う温度応答性ゲル中のカタラーゼの活性低下は、ゲルの網目の脱水和・収縮によるカタラーゼ周りの立体障害の増加が大きな要因であることが示唆された
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今後の研究の推進方策 |
発熱量を増やすためには、ゲル中の酵素濃度を上げれば良いと考える。また、基質濃度が高いほど、膨潤度の差は小さくなってしまうが発熱量は見込めるため両方を考慮した最適な濃度を選ぶ必要がある。 酵素反応の停止については、ゲルは収縮したとしてもある程度の含水率はあり、ゲル中の基質存在量を減らすには限界があると考えられる。よって基質の拡散を考えるよりも酵素周りの立体障害の増加を含め、酵素自体の活性を制御することを目指すことが重要である。 また一方、カタラーゼによる酵素反応を利用する場合、気泡の発生やそれによるゲルの破壊、カタラーゼの失活は避けられない。次に発熱が見込めると考えられたグルコースオキシダーゼではやはりカタラーゼほどの発熱量は見込めないことが示唆されたため、酵素反応以外の発熱反応を利用することも今後検討する。
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